英霊の集う城
「ヴィーザル!?あんた死んだはずじゃ?」
取り乱す様子を見せるジークフリートに苦笑しながら、ヴィーザルが答えた。
『左様です。故に私はここにいる訳ですが・・・』
得心がいかないジークフリートに、ブリュンヒルデが追い打ちをかける。
「そうだぞ!主殿!ここはヴァルハラの宮!死せる英霊達の集う場所だ!ヴィーザルがいるのは当然のことだ!」
胸を張り答えるブリュンヒルデに、ジークフリートは詰め寄った。
「じゃあ!ここには、父、ジグムント王がいるのか!?」
「そういうことだな!だが、今はまず、母上に会い、勇者の資格を会得するのが先決だ!ジグムントには、後で会うといい」
何でもないことのように言うブリュンヒルデであったが、ジークフリートにとっては非常識以外の何ものでもなかった。
そして、もう一人、その事実に取り乱した者がいた。
「まさか・・・母上!私の母、ヒルデガルドもここにいるのでは!?」
ヤールンサクサに縋る様なめでみるリンドブルムであったが、その予想に対して、ヤールンサクサは首を横に振る。
「残念だけど、貴女の想像しているような状態では存在していない」
その答えに、落ち込むリンドブルムであったが、ヤールンサクサの返答には含む所があることに気付いた。
「母上・・・それはどういうことなのですか?」
リンドブルムの質問に、ヤールンサクサは考えるそぶりを見せた。そして、リンドブルムが最も聞きたいであろう答えを聞かせた。
「ヒルデガルドの魂は、確かにここにある。しかし、不死の兵士のように、機神の肉体は持っていないということだ。言葉で説明するのは、難しいというところだな」
「??・・・」
理解できないという顔をするリンドブルムであったが、ヤールンサクサは、そこで説明を打ち切ると、ヴァルハラ宮の中へ入っていった。
「では行こうか?主殿!」
『ジークフリート王子、王にはいずれ会えましょう。どうか、ご壮健で!』
「ああ・・・ありがとう。では、またな」
釈然としない気持ちを抱えつつ、ジークフリートとリンドブルムは、ヤールンサクサの後を追い、グラズヘイムの王城、ヴァルハラ神殿へと足を踏み入れた。
おそらく、この場所へ、生きた人間として入城する初めての存在となったのは、この二人であろう。
そんなことにも気付かず。二人は歩を進める。
城内は、中央の大きな通路を挟み、天井を支える大きな柱が左右にズラッと並んでおり、巨人であろうと通れそうな広さである。
その何もかもが規格外のその光景に圧倒されつつ、ジークフリートとリンドブルムは緊張しつつヤールンサクサとブリュンヒルデ達に挟まれて進んで行く。
物珍しそうに、キョロキョロと周りを見回しているのは、ヴィーのみである。
「これは凄いのう!中までも全てオリハルコンで建てられておる。流石神の城というだけはあるのう」
観光気分のヴィーの声が、ジークフリート達以外、誰もいない通路に、やけに大きく響く。
そして、丁度通路の中間に差し掛かってきた時、それは現れた。
魔法陣に囲まれた、大きな紫の光を放つ水晶の巨石である。
ジークフリートは、その光に何故か邪悪なものを感じた。
何故かは、自分でも判らない。しかし、本能が告げていた。
(これは、危険なモノだ。存在してはならないモノだ!)
まるで、敵のように水晶を睨み付けるジークフリートに対し、その様子を観察していたヤールンサクサが口を開いた。
「これが、ヴァルハラ神殿がオリハルコンで造られている理由の一つ。破壊神ロキの魂の欠片を封じた大封印の一つさ。最悪、地上全ての大封印が破れたとしても、ここにこれがある限り、ロキの復活は有り得ないってことさ」
破壊神ロキ、その名に戦慄を覚えつつ、ジークフリートは先へと進む。
通路の最奥の扉へと辿り着く一行、扉の前にたったヤールンサクサが手を翳すと、扉のルーン文字が輝き、部屋の中にいる女性の、透き通る様な声が聞こえた。
『何方でしょうか?』
「フリッグ!ヤールンサクサだ!貴女の娘達と、予言の勇者を案内してきた。入ってもよろしいか」
『!!』
扉の向こうから、動揺が伝わってくる。いや、待ちわびていたものが、遂にやってきたことへの歓喜というべきか。
重厚なオリハルコンの扉は、音もたてずに開いていった。
その部屋の奥、中央の玉座の上に、美しき女神が座っていた。
「よくぞ来られた。勇者殿。私が、このグラズヘイムの主、フリッグです」
女神は、柔らかな微笑みを浮かべて、ジークフリートを迎えた。
ブリュンヒルデ達のかーちゃん登場!
そして、いよいよ勇者の証を、ジークフリートは手に入れることが出来るのでしょうか?
以下次回!!