ヴァルハラ神殿
ファルマチュールから下船したジークフリートは、目の前にそびえるグラズヘイムの王城、ヴァルハラ神殿の威容に目を奪われていた。
「遠くからも見えていたが、これは凄いな・・・」
呆然としながら、神殿を見上げるジークフリートの横に並び立ったリンドブルムも、目の前の光景を現実として受け入れることに苦労しているようであった。
ヴァルハラ神殿は、その全てが、金色に輝いていた。ファルマチュールから降りたその発着場から、ここまでの石畳、王城へ続く階段まで、全てが金で出来ていた。神殿自体には魔導刻印が文様のように刻まれており、その刻印が放つ透き通った青い輝きが、ヴァルハラ神殿の荘厳さを更に高めているようだった。
「これ、本当に全部金で出来ているのか?」
ジークフリートは、堪えきれずブリュンヒルデに尋ねてみた。今や王族となった身ではあったが、元々が小市民の出であるジークフリートには目の毒であった。これに対し、ブリュンヒルデは何でもないことのように、軽く答えた。
「これは、金ではないぞ、主殿。我等ヴァン神族の拠点が、その様な脆い金属で造られる訳がないではないか!」
その答えに、ジークフリートとリンドブルムは、ほっと息をついた。その二人を呆れたように見ているのはヴィーである。
「そうだぞ、ご主人!本物の金であるなら、我が見間違えるはずがない。違うか?」
ヴィーはその本性が、火の属性の古代竜であった過去を持つ。その言葉は、ジークフリート達を納得させるに十分であった。
「使われているのは、オリハルコンだ。この神殿全てが、オリハルコンで出来ているのだよ!有事の際には、神殿自体が、強固な要塞と化すのだ!」
胸を張って主張するブリュンヒルデ、そして、その言葉に驚愕するジークフリートとリンドブルム。
「これが・・・全部・・・」
「オリハルコンだというのか・・・金のほうがまだましであったな・・・」
再び呆然とする二人であったが、それは無理もない。地上では、オリハルコンは、金などとは比べものにならないほどの希少金属である。
俗に、神の金属などと呼ばれ、ブリュンヒルデ達、戦乙女の神鎧甲に使われているのもこの金属である。
それが、この巨大な神殿全体に使われているとすれば、一体どれほどの量が使われていることか。二人には想像も出来なかった。
「これには、色々な訳があってね。それは追々話すよ。とにかく、神殿へ入ろうか!皆、ついといで!」
二人の様子に、苦笑していたヤールンサクサは、そう言いながら二人の肩をポンと叩いた。
それで、ようやく正気に帰った二人は、慌ててヤールンサクサの後を追いかけて行った。
ジークフリート一行は、ルーン文字がビッシリと刻まれた大扉の前へと辿り着いた。
門の前には、白銀の魔導装甲を纏った衛兵が、門番として立っていた。
ヤールンサクサは、その前に進み出ると、そのよく通る声で、門番達に告げた。
「役目ご苦労である!ヤールンサクサが、勇者殿とその供を連れて参った!」
門番達が、揃って槍をオリハルコンの床に打ち付けると、大扉のルーン文字が光り輝き、ゆっくりと開き始めた。
ジークフリートは、大扉が開くまで、何気なくその門番達を見ていた。
(天界にも、戦乙女以外の人間(?)がいるんだな・・・)
そう思いながら、その顔に視線を向けた。その戦士の顔には、幾何学模様の様な刺青が刻まれていた。そして、うっすらと皮膚の下の骨が透けて見えていた。
その骨は、金属のように銀色に輝いていて・・・。
そして、その門番が、その視線に気付き、ジークフリートの顔を見て、驚いた様子で声を発した。
『まさか・・・シグルド殿か・・・いや!ジグムント王の話が真実ならば、貴方は、ジークフリート王子でありましたな』
ジークフリートは驚いたが、その戦士の顔に覚えがなかった。
『ああ!この顔では判りませぬか?かつて、ヴァルムンクの門の前で戦った不死の兵士、槍使いのヴィーザルで御座います』
その名を聞き、ジークフリートは思い出した。
この冒険の旅で出会った、初めての好敵手、ヴァルムンク近衛騎士団衛士ヴィーザルの名を。
明けましておめでとうごさいます!!って、随分と遅くなりました。
その分張り切っていきましょう!
そして、お久しぶりのヴィーザル登場!!懐かしい!!
そして、いよいよフリッグの登場となります!
以下次回!!