天界の城へ
「なるほど・・・これは凄いな・・・」
神船ファルマチュールの操船を任されたジークフリートは、ようやくコツのようなものを掴んでいた。とはいえ、それはジークフリート自身の能力によるものではなく、ファルマチュールの魔導頭脳からフィードバックされた感覚をそのまま使用しているだけなのだが。
「自分の肉体が、そのまま船になったような感覚だな。指先にいたるまでファルマチュールそのものになったようだ」
ファルマチュールは、ジークフリートの思う通りに動いてくれる。巨大な船体が、自分の思うままに動かせるのは、ジークフリートを高揚させるに十分な出来事であった。
「これは凄いぞ!ファルマチュール!」
『お褒めに預かり光栄です』
自らの横を、並走して飛ぶ天使が笑顔を浮かべて答えるが、ジークフリートはファルマチュールの操船に夢中でそれどころではなかった。
しかし、その空間の中に、突如、ブリュンヒルデの顔が出現した。
「うおっ!?」
「主殿。お楽しみの最中だろうが、リンドブルムにも、ファルマチュールの操船を体験させてやりたいのだ」
そういうと、魔法陣の中にリンドブルムを連れたブリュンヒルデが現れた。
「ファルマチュール!操舵手の交代だ。リンドブルムを登録してくれ」
『承知致しました。リンドブルム様、よろしくお願いします』
「こ、こちらこそよろしく頼む」
やや緊張したリンドブルムを残し、魔法陣から出たジークフリートは、振り返って驚いた。
外の光景はすでに消え、そこには天使の像の前で、不思議な挙動を繰り返すリンドブルムが佇んでいるだけだった。
「俺も、さっきまであんな感じだったのか」
「概ねそんな感じだったぞ。別の空間へ転送される訳ではないからな。外からは丸見えという事だな」
「そうだったのか・・・」
先程までの高揚感は、羞恥心に取って代わられた。
(これは、精神的に来るものがあるな・・・恥ずかしい!!)
先に座席に着いていたブリュンヒルデが、ジークフリートを自分の隣に誘う。
「主殿!後は到着まで、ゆるりとされるがよい」
「ああ・・・そうだな」
リンドブルムも、どうやら、ファルマチュールの操船を問題なく行えるようになってきたようだ。壁面に映し出された外の光景が、気持ちいいように後ろに流れていく。
数多く存在する浮遊大陸が、大きくなっては小さくなる。その中でも、最も巨大な浮遊大陸が見えてきた。光り輝く黄金の城が、ジークフリートの目にもはっきりと視認できる距離となってきた。
「あれが、そうなのか?」
ジークフリートに答え、ブリュンヒルデがその城を見つめながら、誇りと懐かしさをその目に湛えて、その名を口にした。
「その通り!我等の故郷ヴァーラスキャールブ、そして父、オーディン神の居城、ヴァルハラ神殿だ!」
懐かしさに浸っているのは、ブリュンヒルデだけではなかった。
「約二千年ぶりっスか・・・長かったっスね・・・」
「ワルテ姉君と~、ルーネ姉君も~、連れて来たかったですね~」
ゲルヒルデとヘルムヴァーテも、映し出された懐かしい自分達の生家を目に写し、感激していた。
ヤールンサクサは、年若い戦乙女達の様子を、微笑ましく見守っていたが、不意に、ジークフリートに向かってこう尋ねた。
「勇者殿、覚悟はよろしいかな?ここから先へ進めば、最早後戻りは出来ぬぞ」
ヤールンサクサの眼差しには、ジークフリートの覚悟のほどを見極めよういう意思が感じられた。
だが、ジークフリートはその目を真っ直ぐ見返して答えた。
「後戻りなど有り得ない。・・・あの日、ブリュンヒルデを封印から解き放った時から、覚悟など決まっているさ!」
力強く答えるジークフリートの言葉に、嘘はないと見たヤールンサクサは目を閉じ、頷いた。
「これは、聞く必要のない質問であったな許されよ・・・さて、どうやら到着の様だ。行くとするか!」
ヤールンサクサと話す内に、ファルマチュールは、ヴァーラスキャールブの前にある発着場へ到着していた。リンドブルムは既に操船を止めており、接舷はファルマチュールに任せていたらしい。音もなく到着していたファルマチュールの技術の高さに驚きつつ、ジークフリートは、勇者の資格を手に入れるため、グラズヘイムの王城へとたどり着いたのである。
ようやく、王城へたどり着いたジークフリート一行。勇者の証とは、一体何か?(笑)
そして、リンドブルムに待つ運命とは?
以下次回!!




