新たな試練
エイエイオーなどと、勝鬨に似た雄たけびをあげるエインヘリヤルとブリュンヒルデを余所に、ジークフリートは真っ二つとなった二振りの剣を見つめていた。一つは実の父の剣、魔剣ノートゥング、もう一つは、亡き養父の形見の剣である。
そのジークフリートに、司教ミーメが語りかけて来た。
『その剣の銘は、ブルートガング、ジグムント王がレギンに与えたこの国の宝剣の一つですな・・・奇しくも二つの宝剣が貴方の命を救い。グラムへ導くという役目を果たしたのでしょう』
「司教様か・・・」
黒獅子の鎧を宝剣グラムのの柄頭の宝玉に集納し、それを鞘に納めた物を渡しにやって来たその時、ジークフリートの口から、かつて呼ばれていた、懐かしい呼び名が滑り出た。司教ミーメは、思わず目頭を押さえたが、今の自分は涙も流せない身体だと思い出し、残念に思いながら、宝剣グラムをジークフリートに渡し、話を続けた。
『貴方は今まで、どこで何をしていらっしゃったのですか?』
ジークフリートは、自重しながら答えた。
「ミズガルズにいたよ・・・しかも、親衛騎士団の団長としてな・・・」
『なんと!?』
司教ミーメは、驚くと同時に納得した。
『なるほど・・・木を隠すなら森の中という訳ですな。流石は戦上手で知れたレギン殿だ。敵もまさか自分達の追っている者が、自国の中にいるとは思わないでしょうからな・・・しかし、親衛騎士団の団長とは・・・』
「流石の養父も驚いていたよ・・・まさか、俺が親の敵に仕えることとなるとは、想像していなかったんだろうな・・・」
ジークフリートは、二本の剣の残骸を魔導鞄の中に収納すると、決意も新たに立ち上がった。
「まだ、こいつらの役目は終ってないさ!必ず修復してみせる!この国と同じくな!!」
『おお!!』
司教ミーメが、再び目頭を押さえる仕草をする。ジークフリートは、そこでふと、魔道鞄の中にしまった導きの宝珠のことを思い出した。
(そういえば、もうこれは要らないな・・・。)
そう思い、鞄から宝珠を取り出した。
しかし、宝珠を取り出した瞬間、淡い光が辺りを満たした。
「なっ!?」
光が収束し、再び方角を示した。
「これは一体・・・?」
その疑問に答える声がした。
「おお!それはオーディンの瞳ではないか!」
それは、やはりブリュンヒルデであった。
「そのオーディンの瞳は、主殿が乗り越えるべき試練を示す、道しるべだ。」
ブリュンヒルデの言葉に、ジークフリートは驚いた。
「試練は、これを抜く事じゃないのか?」
と言い、宝剣グラムを掲げて見せたが、ブリュンヒルデは首を振って否定した。
「主殿が果たすべき試練は九つ存在する。本来ならその剣を抜き、私と戦うはずであったのだ。」
ジークフリートは、ギョッとした。もしそうなっていたらどうなっていたろうか。
「しかし、ジグムントとの戦いをしかと見せてもらった。あなたは、私の主として相応しい技量と意志の強さをみた。」
そこで再び、ブリュンヒルデは頬を染めた。
「素晴らしい戦いだった!私は感動したぞ!あなたこそ、我が主殿だ!!」
彼女に殺されるという未来の問題は、とりあえず、おいておくことにしたジークフリートは、導きの宝珠が指し示す、次なる試練に向かうことにした。
「さあ!行くか主殿!!」
ブリュンヒルデは、ジークフリートの手を取ると意気揚々と歩きだした。
これは始まりに過ぎませんでした。カラスです。
次章より新たな展開がジークフリートとなった主人公を襲いますが、どうなりますことやら。