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ラグナロクブレイカー  作者: 闇夜野 カラス
神々の世界の章
199/211

予行演習

 ジークフリートの足元から魔法陣が浮かび上がる。更に前後左右、上方にも魔法陣が出現し、周囲の光景が一変する。外の世界が目の前に広がり、空の上へ放り出されたような感覚があった。しかし、そのまま落下するようなことはなく、上空に漂ったまま呆然としていた。


「これは一体!?ブリュンヒルデ達は何処へ消えたんだ?」


 ジークフリートが、辺りの様子に気を配っていると、翼を背に持つ女性が現れた。


『ブリュンヒルデ様達は、すぐそばにおいでです。表示いたしましょうか?』


 ジークフリートは、この突如現れた女性が、ファルマチュールの操舵室(ブリッジ)の天使像と瓜二つであることから、魔導頭脳の存在をイメージした映像(ヴィジョン)であると予想した。


「それはいい。・・・しかし、手動操作に切り替えたのだろう?落ちないのか、コレ」


 ジークフリートは、自分達が搭乗したファルマチュールの巨大な船体を思い出し、不安になった。


『ご心配には及びません。手動操作とはいえ、未だに船体の制御の半分は、私が受け持っています。この船が落ちるようなことは決してあり得ません』


 魔導頭脳の映し出した天使は、見るものが安心するような笑顔を見せた。


「なるほどな・・・では、操縦方法を教えてもらおうか」


 平静を装いながらも、ジークフリートは改めて天界の魔導科学の水準の高さに驚いていた。


(まるで、本当に感情があるようだ。こちらの精神状態を察知してあんな表情を選択したのなら、人工知能もびっくりの完成度だな)


 ジークフリートが、ファルマチュールの凄さに感心しているその横で、ブリュンヒルデ達は、ヤールンサクサとの談話に興じていた。


「ヤールンサクサ様、主殿に神船の操舵を任せたのは、やはり魔導巨神(デウス・エクスマキナ)を動かすための試金石ということなのでしょうか?」


 ブリュンヒルデの問いに、ヤールンサクサはニヤリと口角を曲げる。


「いい読みだな。いきなり、ぶっつけ本番じゃあ、勇者殿も困るであろう。心構えだけでも持ってくれればそれでいいさ」


 ゲルヒルデやヘルムヴァーテは、なるほどと納得する。しかし、魔導巨神(デウス・エクスマキナ)が如何なる存在か知らないリンドブルムが、続けて質問する。


「お母様、魔導巨神(デウス・エクスマキナ)とは、一体なんなのですか?」


 リンドブルムの問いに、ヤールンサクサは喜んで答える。


「リンドブルム、貴女は魔導神姫(レギンレイヴ)を見たことがあるのかな?」

「はい。かつて我が故郷、ヴィーグリーズが魔神族の大軍に襲われた折、ブリュンヒルデ様達の魔導神姫(レギンレイヴ)を拝見しました」


 リンドブルムの答えに、ヤールンサクサは首肯し、その視線をファルマチュールの操船に集中しているジークフリートへと移す。


魔導巨神(デウス・エクスマキナ)は神の鎧、魔導神姫(レギンレイヴ)すら凌駕する天界の兵器だ」


 ヤールンサクサの答えに、リンドブルムは息を飲む。


「それ故に、それを動かすに足る、正しき心と資質を持つ者。即ち神に認められし勇者のみが、その資格を許されるのだ」


 リンドブルムも、ヤールンサクサにならいジークフリートにその視線を向ける。そこにあるのは、不安や恐怖といったものではない。リンドブルムの瞳には、希望と信頼のみが宿っていた。


「主殿だけではないぞ。リンドブルム、其方もファルマチュールの操船を学んでおいた方が良いのではないかな?」


 ブリュンヒルデの声に、現実に戻ったリンドブルムは、その意味するところを想像した。


「まさか・・・」


 驚愕の表情を浮かべるリンドブルムを他所に、ブリュンヒルデは、横に座るヤールンサクサに尋ねる。


「確か、リンドブルムの母親であるヒルデガルドの魔導神姫(レギンレイヴ)が、無傷で残っているのではないですか?」


 母の遺産と聞き、リンドブルムは期待を込めてヤールンサクサを見つめる。愛しい孫娘のその視線に、ヤールンサクサは溜息を一つついた。


「せっかく驚かそうと思っていたのに・・・ヒルデ、貴女、少し口が軽すぎるぞ」

「恐れ入ります」


 じとっとした視線を向けてくるヤールンサクサに、ブリュンヒルデは良い笑顔を返すだけだった。

 何事にも、練習は必要です。ご機嫌如何?

 どうやら、リンドブルムにも、試練が待っている模様です。

 以下次回!!

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