天界の入り口
まず、ジークフリートがブロック王に語って聞かせたのは、天空回廊の先に待っていた虹の橋の番人、ヘイムダルとの死闘であった。
「それでよく生きてたな・・・。魔導機神とはいえ、神に戦いを挑んで勝利するとは・・・」
豪胆で知られるブロック王であったが、ジークフリートの挑んだ試練の重さには、驚嘆を禁じ得なかった。
「今回は、流石に死を覚悟したよ。実際、ヘルムヴァーテの完全回復魔法が無ければ、俺は死んでいたろうな。」
ブロック王は、今も街の復興に尽力している、自国の守護女神の力に、改めて感服した。つい先日、完全に石化させられてしまった部下達を、浄化の魔法で蘇生させたところを目の前で披露させられたばかりであったからだ。
「ヘルムヴァーテ様か・・・。あの御方の力、これからのお主の旅の強力な味方となろう・・・。して、それからどうしたのだ?」
話の続きを促すブロック王に苦笑しながら、ジークフリートは過日、自分が体験した経験を思い出した・・・。
虹の橋の中へと入ったジークフリート達は、眩い光に目が眩むほどであった。しかし、それも一瞬の出来事で、気が付くと周囲は一変していた。ジークフリート達は、巨大な建築物の中に設置された、魔法陣の中心に立っていた。元々ここの住人であったブリュンヒルデとゲルヒルデ、それとヘルムヴァーテは、その顔に懐かしさを覗かせるものの、いたって平静であった。しかし、この場所に初めて訪れたジークフリートを始め、リンドブルムとヴィーは、その場所に使われた建築技術の高さと、余りの美しさの為、目を大きく見開いて固まっていたのである。
床や柱、扉に至るまで、あらゆるものが光り輝いている。といっても、目を痛めるほどのきつい光ではない。人が直視出来るほどの柔らかな光を、建物自体がはなっているのだ。燭台などの類が一切みられないのに、密室であるこの部屋の隅々まで視認できるのはその為である。
「懐かしいな・・・」
「ええ~そうですね~」
「やっと、我が家に帰ってこれたっスね!」
和気あいあいと、故郷の感触に身を浸している女神達であったが、その広間の扉が開く音にようやく我に返った。扉を開いたのは、ジークフリート達ではない。とすれば、それは他の人物である。開いた扉の向こうからは光が溢れ出し、逆光となってその人物の姿がはっきりと見えなかったが、清く澄んだ声が響き、その人物が女性であると知れた。
「永き眠りより、ようやく帰ってこられたか。ヴァルハラの娘達よ」
その声に聞き覚えがあったのか、ブリュンヒルデ達は顔を見合わせると、その場に膝をついて、頭を垂れた。ジークフリート達は、女神達の行動に驚いたが、この声のの持ち主が、彼女等より高位の女神であると予想するのに時間はかからなかった。何故なら、その女性は、意気揚々とジークフリート達の前へ進み出てきたからである。その姿は、戦乙女の戦装束、金色の神鎧甲を纏っており、一目でソレとわかったからである。
「「「お久しぶりです!ヤールンサクサ様!」」」
三人の女神の声が唱和し、彼女の名をジークフリート達に告げる。ヤールンサクサは、満足げに頷くと、ジークフリートの前に立つと、胸に手を当て視線を下げ、改めて名乗った。
「我が名は、ヤールンサクサ。雷神トールの妻にございます。よくおいでなされた。救世の勇者殿」
ジークフリートは、ブリュンヒルデ達よりも高位の女神に礼を尽くした挨拶をされ、内心、慌てふためいたが、礼には礼をもって返すのが騎士たる者の務めであると養父より叩き込まれていた為、考えるより先に体が動いた。
流れるように片膝をつき、胸に手を当て、頭を垂れる。正に騎士の礼の見本の様な所作を取り、ヤールンサクサに対し返礼を返した。
「ご丁寧な挨拶、痛みいりますヤールンサクサ様。我が名はジークフリート。試練の導きにより参上いたしました」
ヤールンサクサは、ジークフリートの返礼に感心すると、ふと目を上げた。そこには、リンドブルムが立っていた。ヤールンサクサの視線に気付き、リンドブルムが、ジークフリートに習い、名乗ろうとしたその時である。ヤールンサクサは驚きとともに、ある名前を口にした。
「そんな・・・まさか、スルーズ!スルーズではないですか!?」
リンドブルムは、その名に、聞き覚えはなく、途方に暮れるばかりであった。
間違いが発覚しました。ドゥベルグの世界の名前は、ニダヴェリールでした。
スヴェルトアールブでは、ダークエルフの世界になってしまいます。急いで修正しなければ!!
ところで、今回は、リンドブルムの関係者っぽい女神、ヤールンサクサの登場となりました。スルーズって一体誰のことでしょうか?
以下次回!!