戦いの勝者
ニーズホッグは自分がいつ斬られたのかさえ、分かっていなかった。吠え叫ぶ者が一瞬、輝いた所までは認識できていたが、その次の瞬間には吠え叫ぶ者は消えていた。そして今、自分は身動きが取れないまま、空を見上げていた。呼吸をする度に、ヒュウヒュウと音が聞こえて、息苦しさを覚えた。それは、吠え叫ぶ者によって両断された肺から、呼吸した空気が漏れる音であった。ニーズホッグがそれを理解できたのは、自分の横に転がっている自分の半身を見た時であった。
『ゴフッ!!』
呼吸が乱れ咳き込むと同時に、ニーズホッグは大量に血を吐いた。
(こんなバカなことがあるか!!本懐も遂げられぬまま、私はここで潰えるというのか!?)
絶望に囚われたニーズホッグに、落ちる影があった。ニーズホッグはその影の主を、ありったけの憎悪をもって睨み付けた。そこには、戦いの勝者たる吠え叫ぶ者が悠然と立っていた。
『勝負あったようだな』
その声には、勝者の余裕が窺えた。逆上したニーズホッグは、ジークフリートに、怨嗟の言葉を投げかけた。
『確かに、この勝負はあなたの勝ちです・・・しかし、私も混沌の蛇として畏れられたもの・・・我が血は千年かけようと、大地を侵食し・・・グランネイドルを壊滅させるでしょう・・・ククク・・・最後に笑うのは、私です・・・!』
血を吐き出しながら語るニーズホッグに、ジークフリートは己が炎の魔剣を掲げて見せた。
『俺の剣は、炎の属性を持つ魔剣でな・・・敵の肉体を焼き切ることが可能だ。自分の半身を見てみろ、未だに血は流れ出していないぞ』
その言葉に、ニーズホッグは慌てて両断された自分の半身を見た。そこにはジークフリートの言った通り、血が一滴も流れ出ていない体があった。
『だが、聞いてしまった以上、後顧の憂いは断たせて貰う』
そう言うと、ジークフリートは吠え叫ぶ者を飛び立たせた。最高速に達した吠え叫ぶ者が旋回を始める。それは瞬く間に、炎の竜巻と化してゆく。
『龍牙旋風!!!』
その竜巻に、巻き込まれたニーズホッグは、天高く宙へ舞い上げられていった。
『グアアアアア!!何という力だ!!これが、魔導巨神!?』
まるで風に舞う木の葉のように、竜巻の起こす乱気流に乗って、ニーズホッグの巨体がどこまでも舞い上げられていく。雲を突き抜け、成層圏に達したところで、ようやく上昇が収まった。眩い太陽が照らし出す世界の姿に、死が迫ったニーズホッグはつかの間の安らぎを得た。その視界の端に、キラリと輝くものがあった。それは、エキドナから託された念話水晶であった。ニーズホッグは、最後の力を振り絞り、念話水晶に、唯一残った右腕を伸ばした。
『ヴィー!!準備はいいか!?』
『こちらは、いつでも全開で行けるぞ!!ご主人!!』
吹き上げた炎が金色に染まり、ジークフリートの闘気に呼応するように、炎の魔剣の魔力が増大していく。
それは、ジークフリートとヴィーの二つの力が合わさって発動する神技!
『『煉獄天衝!!!!』』
二人の声が重なり、天に轟いた。炎の魔剣が一際輝き、その刀身から巨大な炎の竜が顕現する。そして、炎の竜は閃光となって、重力に引かれて落下するニーズホッグに襲い掛かった。灼熱の炎の閃光がニーズホッグを焼き尽くしていく。その煉獄の中で、ニーズホッグは最期の断末魔を上げた。
『我等が民!!蛇神族に栄光あれーーーーーーー!!!!!』
炎の竜は、ニーズホッグのみならず、その蛇神鎧までも消滅させた。それは、光の粒子となって吠え叫ぶ者に降り注いだ。
その光景は、遥か大地の下、グランネイドルにおいても、ブリュンヒルデの至宝、天空の瞳によって投映されていた。
「勝ったぞ・・・」
それは誰の呟きであったろうか。その小波はやがて、大瀑布となり波及していく。
「やった!勝ったぞ!!勝ったんだ!!」「俺たちの勝利だ!!」「グランネイドルは救われた!!」「救世主だ!彼は、救世主だ!!」「そうだ!勇者だ!ここグランネイドルに勇者が降臨したぞ!!」「バンザーイ!!勇者様、バンザーイ!!」
その、民達と共に、ジークフリートの戦いを見守っていたブリュンヒルデが、感慨深げに、微笑みながら囁いた。
「オーディンの勇者が、我等の勇者が今、誕生した」
勇者降臨の章、これにて閉幕!
次回から新章に突入します。いろいろ、ほったらかしにしている話もありますので、その辺りを攻めていこうと思います。
以下次回!!
パソコンが死にました。新品に替えて投稿、一回目!!
予想外に使いやすい!!
しかし、明日からまた出張である!!オラが死ぬる!!