蛇将敗北
それはまさに、蛇神族としての身体機能を利用した魔技であった。ニーズホッグは、その四本存在する腕の上ニ本の手に持った円月刀を逆手に持ちこれを振り下ろし、残り二本の腕で下から突き上げた。
受ける側の魔導巨神、吠え叫ぶ者に乗ったジークフリートには、巨大な蛇の顎が迫って来るように見えた。
『フッ!!』
ジークフリートは、吠え叫ぶ者を流れるように操作する。すると、今まで吠え叫ぶ者の存在していた場所に、ニーズホッグの振るった円月刀が噛み合わされ、空振りと同時に、ガキンと音をたてる。
グランネイドルのドゥベルグ達から見れば、巨大な蛇となったニーズホッグが、吠え叫ぶ者に喰らい付くように見えたことだろう。
ガキン!ガキン!ガキン!ガキン!ガキン!ガキン!ガキン!ガキン!ガキン!ガキン!ガキン!ガキン!ガキン!ガキン!ガキン!ガキン!ガキン!ガキン!ガキン!ガキン!ガキン!ガキン!ガキン!ガキン!ガキン!ガキン!ガキン!ガキン!ガキン!ガキン!ガキン!ガキン!ガキン!ガキン!ガキン!
吠え叫ぶ者の機動を追いかけるように、ニーズホッグの円月刀が大地を砕き、空を切り裂く。終ることのない破壊の連鎖が地形すら変え、ジークフリートを襲う。その様は、まさに百の頭を持つ蛇の姿であった。ニーズホッグの腕から流れた血が、円月刀を伝い、混沌の蛇たる所以である毒血がまとわり付き必殺の威力が加算される。しかし!
(当たらない!!なんという速度!!これが魔導巨神!!)
ニーズホッグは、自身の必殺と信じた技が、次々と躱されていくことが恐怖であった。例え魔導巨神であろうとも、自身の魂すらも削った渾身の技を持ってすれば、必ず破壊できる!そう確信すらしていたのだから。
『死いぃぃぃぃねぇぇぇぇぇ!!!!』
ニーズホッグの絶叫が、フニットビョルグに響き渡った。漆黒の闘気と毒血が巻き起こした嵐が、破壊の度合いを増大させて行き、地の底であるグランネイドルにまで、その余波が押し寄せようとした。
その刹那、吠え叫ぶ者の放つ金色の光が輝きを増し、炎の魔剣の魔力によって生じた炎が噴き上がる。炎は魔剣の刀身を一瞬で赤熱化させ、真っ赤に染め上げた。
『神技』
ニーズホッグの第六感が、その言葉に死の危険を感じ取る。しかし、それは余りにも遅すぎた。
『天威無放』
集束された魔力が、吠え叫ぶ者の背から、炎の魔剣の力によって炎の翼を形成し、機体を一気に加速させる。
ズドン!!
音速を超えた機体が発した衝撃音と共に、吠え叫ぶ者は、ニーズホッグの起こした剣戟の嵐の中に飛び込んで行く。だが、二つの神通力を手に入れたジークフリートにとって緩慢に過ぎた。その刃は狂いなくニーズホッグの肩口に添えられ、一気に斜めに切り裂いた。
グランネイドルで、その戦いを見守っていたドゥベルグ達には、吠え叫ぶ者が一瞬光った後、ニーズホッグの背後に転移したように見えたことだろう。事実、剣の女神と呼ばれるシュベルトライテでさえ、その剣の影さえ追うことが出来なかったほどだ。
「決ったな!」
ブリュンヒルデの力のこもった声が響き、ドゥベルグ達は静まり返り、天空の瞳の映す映像に見入った。
ガキン!!
その音と共に、ようやくニーズホッグが止まる。円月刀が噛み合ったまま微動だにしないニーズホッグの後ろで、吠え叫ぶ者が立ち上がり、炎の魔剣を一閃させる。
ズルリ・・・
ニーズホッグの身体が斜めにずれ、上半身と下半身に両断された身体が、ズシン!と音をたてて崩れ落ちた。
ジークフリート勝利の巻!!ついにニーズホッグを倒しました。
以下次回!!