蛇の一噛み
ジークフリートとニーズホッグがジークルーネの転移魔法によって、フニットビョルグの山頂へ跳ばされた後、グランネイドルでは、二人の戦いの余波によって、時折大きな音と共に、地鳴りが響き、天井部分から落石が起きるなどの被害が出ていた。
「一体、上の方では何が起こっているのだ?」
外の状況が、一切知ることの出来ないブロック王や、グランネイドルの民達は、言い知れぬ不安に怯えていた。リンドブルムやゲルヒルデもまた、一人外で戦っているであろうジークフリートの安否が知りたいらしく、そわそわと落ち着きのない状態であった。
「落ち着かれるがよい。ブロック王よ」
そこへ、シュベルトライテの身体を支えたブリュンヒルデと、ジークルーネに肩を貸したヘルムヴァーテが合流した。
「今、主殿は、このグランネイドルの真上、フニットビョルグの上で、敵の蛇将ニーズホッグと戦っているはずだ!我が至宝、天空の瞳の力で、その様子を伺うことにしよう」
そう言うと、ブリュンヒルデは宝珠を取り出し、おもむろに魔力を注ぎこんだ。その魔力に呼応し、天空の瞳が輝くと、その上空に発光する球体が出現した。
「「「「オオゥ!?」」」」
居合わせたドゥベルグ達が、驚愕の声を上げる。そこには、互いの武器を振るって戦い合う巨大な存在が映し出されていたからだ。
「こ・・・これは!」
「千里の先も見通すと言われる天空の瞳の力です。しかし、姉上、ここでその力を使ってよかったのですか?」
ジークルーネが、ブリュンヒルデに尋ねるが、その返答は実に自身に溢れたものであった。
「案ずることは無いぞ、ルーネ!我等が主殿は必ず勝つ!それに、この者達には見ておいて欲しいのだ」
そう言うと、ブリュンヒルデはそこに集う全ての者に聞こえるよう声を張り上げた。
「グランネイドルの民達よ!その目にしかと焼き付けるがよい!!今日ここに、オーディン神に選ばれし勇者の誕生する瞬間を!!」
そう言うと、ブリュンヒルデは更に天空の瞳に魔力を注いだ。上空の球体が更に大きくなり、まるで等身大の二つの存在がそこにいるような錯覚さえ見る者に起こしていた。
ガッキイイイイン!!
金属同士のぶつかり合う音が響き、金色に輝く、ジークフリートの駆る魔導巨神が振り下ろす炎の魔剣の一撃を受け止めたニーズホッグは、大きく態勢を崩した。
『グウッ!?』
自身の全力を持ってして、目の前に立つ神の遺産、魔導巨神を討滅せんと奮い立ったニーズホッグであったが、その戦いは、一方的なものであった。
(ヨルムンガルド様より賜ったこの黒龍石から創り出した円月刀でなければとうの昔に決着は付いていたな)
そう感謝するニーズホッグであったが、既に蛇神鎧の下にあるその腕は、肘関節から血が滴り落ちていた。ジークフリートの魔導巨神による攻撃を受ける度、その肉体は限度を超えた衝撃によってダメージを蓄積させられていたのである。それでも、ニーズホッグは戦いから一歩も引く事は無かった。自らの魂すら削り、なんとしてもこの戦いに勝利する。それが、ヨルムンガルドに対する彼の忠義であった。
『例えここで倒れようとも、お前だけは必ず殺す!!』
突如として、ニーズホッグの闘気が爆発する。
『来るぞ!ご主人!!』
炎の魔剣と化したヴィーの言葉を聞くまでもなく、ジークフリートは、ニーズホッグが勝負に打って出たことに気付いていた。
(こちらも勝負に出る!!)
ジークフリートの闘気の上昇と共に、炎の魔剣の刀身が光を放つが、それと同時に、ニーズホッグはその巨体ごとぶつけるように己が最高の魔技を繰り出した。
『百蛇噛撃!!!!』
黒き闘気を纏い、その巨体から物理法則など一切無視した音速の連撃が放たれた。
ニーズホッグは、生身で魔導巨神に挑みます。
戦いの決着は如何に!!以下次回!!
一週間ぶりです!!ようやく、出張から帰りました。
帰ったのは昨日ですが、爆睡してしまい更新できずでした。




