約束
「い・・・いきなり何を!?」
シグルド改めジークフリートは、これまで女性と付き合ったことがなかった。この世界での20年間も、別世界である現世を生きた26年の人生でもである。
情けないことに、この異世界でも童貞だった。顔は格段に良くなり、戦いにおいても、既に英雄と呼ばれるようになってもそうであった。まあ、実の所、現世において心から人を愛したことがなかったジークフリートは、この世界に来て、ようやく初恋というものを経験したのだが、結果は見事に惨敗。女性に対して奥手にもなるというものである。
だというのに、ここにきていきなり初キッスである。必要以上に混乱するのも、無理がないと言えるだろう。
「契約の証しのようなものだ!気にするな!」
ブリュンヒルデのほうは、どこ吹く風である。そして、なぜかとても嬉しそうなのだ。
しかしそこで、ジークフリートは、大勢の視線を感じた。
恐る恐る振り返ると、死霊騎士達と、司祭ミーメが二人をジッと見ていた。
(忘れてたーーー!!!こいつらいたんだったーーー!!!)
自分が衆人環視のなかで、ファーストキスをやらかしたことに気づき、ジークフリートは、転げ回りたい気分で一杯になった。
しかし、司祭ミーメはそんな空気に臆することなく進み出ると、ジークフリートと、ブリュンヒルデの二人を祝福した。
『まずは、おめでとうございます!!殿下!!そして、ブリュンヒルデ様!!お二人の未来に幸多からんことを!!』
『『幸多からんことを!!!』』
その死者達の声を聞いたブリュンヒルデは、ジークフリートの前に出て、これに応えた。
「ありがとう諸君!!ところで、そなたたちはエインヘリヤルのようだが、望むというのなら、いますぐヴァルハラに送ってやれるぞ?」
その言葉に、司祭ミーメが答えた。
『それには及びません。我らは、このままここに残ります。新たなるヴァルムンクが再び再建され、そして新王が即位されるまで、我らはこの故国を守り続けます・・・。』
ブリュンヒルデは、更に問うた。
「再建には、いく年かかるか分からぬぞ?」
司祭ミーメは、決然と首を振った。
『我らは、希望なく20年待ちました。しかし殿下は生きておられた!あと何年かかろうと、我らの胸には確かな希望がございます!ヴァルハラに昇るのはそれからでも遅くはありますまい。』
ブリュンヒルデは、ミーメの言葉に頷きエインヘリヤル達を見渡した。
エインヘリヤル達はその視線に宿る疑問に、全員が頷くことで答えた。
「皆の意思!確かに受け取った!!ヴァルムンクは再び建国すると、ここに誓おう!!」
ブリュンヒルデが、剣を抜き天へ掲げた。
エインヘリヤルたちも、一斉に剣を掲げ雄たけびを上げた。
『『オオーーーーーーーーーー!!!!』』
(それは、俺が言わなきゃならないセリフだろ!?今更言えねーし!!)
ジークフリートは、空気を読まないブリュンヒルデによって、先に故郷の復活の約束をされてしまった。こうして、一人の転生者と、一柱の女神は出会う運びとなった。
ヒロインに振り回される主人公の図!カラスです!ブリュンヒルデは、直情型です。頑張れ主人公!