吠え叫ぶ者
ニーズホッグは、グランネイドルの市街地へと入り、尚も前進して行く。このままでは、いずれ王城へと辿り着き、宣言通りこのグランネイドルの街を消滅させるだろう。
しかし、その圧倒的な、破壊という言葉を体現した姿を見ても、ジークフリートは、恐れを抱く事が無かった。
「おいおい・・・デビュー戦にしては、大袈裟な相手だな」
『仕方あるまい。それが、勇者の宿命というものだろう。ご主人』
手元の炎の魔剣から、ヴィーの緊張感の無いのんびりした声が響く。
その声を聞きながら、ジークフリートは不敵に笑みを洩らした。
「ルーネ!俺が奴に取り付いたら、奴ごと跳ばせるか?」
ジークフリートは、視線をニーズホッグに向けたまま、ジークルーネに尋ねた。ジークルーネはその質問の意味を即座に理解した。
「一度だけなら・・・しかし、ご主人様お一人で相対さねばならなくなります。それでも?」
その質問に、ジークフリートは行動で応えた。炎の魔剣を翳し、叫んだのである。その声は、ニーズホッグのたてる破壊音の中に、やけに鮮明に轟いた。
『契約の元!!勇者ジークフリートが命じる!!来たれ!!吠え叫ぶ者!!』
その叫びと共に、魔導装甲の胸部装甲に施された、獅子の装飾が、咆哮を上げる。それと同時に、その顎から、眩い閃光が放たれる。傍から見ていた者達には、獅子の装甲が、光を発している様に見えたことだろう。しかし、獅子の口の中には、かつて賢神ミーミルによってもたらされた魔導宝庫が収納されており、光はそこから放たれていた。
女神達とドゥベルグの兵士達の前で、その光が、何も存在しない空間に、人型の巨神を描き出す。光の粒子が収束し、巨神は、実体となってジークフリートの前に現れた。
ズン!!
巨神が、グランネイドルの地に降り立つと、大地が揺れた。そして・・・
『ウオオオオオオオオオオオオオオオン!!!』
その叫びは、グランネイドル全土に響き渡った。
「魔導巨神・・・ご主人様、貴方は真の勇者となられたのですね」
ジークルーネが、感慨もひとしおに、魔導巨神を見上げる。何故なら、吠え叫ぶ者は、彼女の父神であるオーディン神の魔導巨神と瓜二つであったからだ。もっとも、その機体色は、オーディン神の叫ぶ者が白銀色であったのに対し、ジークフリートの吠え叫ぶ者は、黒一色に金の装飾が施されていた。神の代行者でありながら、魔神の血を引く勇者の乗る矛盾を孕んだ機体、それが、吠え叫ぶ者であった。
「行って来る!!」
そう言い残すと、ジークフリートは光の粒子となって消えた。吠え叫ぶ者が、彼を取り込んだのである。
「頼んだぞ!!主殿!!」
送り出すブリュンヒルデの声には、ジークフリートに向ける絶対的な信頼が込められていた。
『なんですか!?アレは・・・』
ニーズホッグは、突如、光と共に出現した巨神の存在に困惑していた。ここグランネイドルは地底に造られた都市である。故に、魔導姫神が現れることは、無いと言って良かったはずであった。となれば・・・
『まさか!!魔導巨神だとでもいうのですか!!後少しで目的が達せられるというのに!!』
ニーズホッグの焦りを他所に、ジークフリートの駆る吠え叫ぶ者は、凄まじい速度で、空中を滑るように移動し、ニーズホッグへ突進してきた。両者は凄まじい音と衝撃を発して激突した。
遂に、ジークフリートの駆る魔導巨神が初見参しました。長かった・・・、本当はもっと早く出すつもりでしたが、何故かここまで引っ張ってしまいました。
魔導巨神での初戦闘に、ジークフリートは勝利することが出来るのでしょうか?(笑)
以下次回!!