帰還せし者
エキドナの放った光の矢が集束し、赤い光の玉となった瞬間、その中心に居たシュベルトライテから閃光が迸った。赤い光が、シュベルトライテから放たれた光は、その一つ一つが、彼女の繰り出した剣戟である。
一瞬にして、赤い光球が青い光の球へと変じる。エキドナは、何が起こったのか、分からない。しかし、凄まじい衝撃に襲われ地上へと墜落していく。ゆっくりと落ちて行く間、エキドナは、先程の衝撃が、シュベルトライテの神技によって引き起こされた真空衝撃波の余波によるものだと気付いた。
(もし、こちらが遠距離からの攻撃ではなく、近接戦闘を行っている状態で、今の攻撃を受けていたら、間違いなく死んでいたね・・・)
余波のみの衝撃とはいえ、その威力は、エキドナの蛇神鎧女胴蛇を持ってしても守り切れず。エキドナの身体に、無数の手傷を負わせていた。致命傷は免れたものの、もはやこちらも、満身創痍の状態である。
地上に激突する瞬間、最後の魔力を振り絞り、エキドナは、女胴蛇に付与された技能重羽龍亜霊を展開させた。地上に近づくほど加速していた身体が、一瞬の浮遊感に満たされるが、それを過ぎれば、次に感じたのは、恐ろしいほどの重量感であった。
『ググッ!!』
エキドナは、歯をくいしばり、地上への激突を防ぐ為、女胴蛇に送る残った魔力を全て注ぎこんだ。その甲斐あってか、空中で体勢を立てなおしたエキドナは、無事に着地することに成功する。彼女の姿を認めた蜥蜴人の戦士達が駆け付けて来た。
『エキドナ様!!ご無事で!?』
『大丈夫、と言いたいが、流石に空ッ欠だよ・・・戦乙女の名は伊達ではないと言ったところか・・・』
エキドナの睨みつける方向に、舞い降りて来た影がある。それは、シュベルトライテであった。しかし、彼女の顔は、血の気が全くなく、立っているのがやっとの状態であった。彼女もまた、上空から地上へ降りるまでに、その魔力を使いきっていたのである。
『でも、そっちも限界みたいだねぇ!お前達!!』
エキドナの号令に、蜥蜴人の戦士達が、一斉に腰に着けていた、幅の広い刃を持つ蛮刀を抜き放つ。
『今なら、お前達でも、充分、歯の立つ相手だよ!!討ち取って手柄にしな!!』
エキドナが、手を振り翳すと同時に、蜥蜴人達は、一斉にシュベルトライテ目掛けて突進した。
シュベルトライテは、未だその心は死んでいなかったが、いかんせん血を流し過ぎた。その上、二度目の神技の使用により、肉体はすでに限界に来ていた。最早、その手に持つ竜斬刀を振るうことも出来ぬまま、殺到してくる蜥蜴人達を見ていることしか出来なかった。
『討ち取ったり!!ヴァルハラの魔女め!!』
最も速くシュベルトライテの元に辿り着いた蜥蜴人が、その手に持った蛮刀を、シュベルトライテの首筋へ叩き込んだ。
ガキイイイイイイィン!!
鳴り響く金属音とともに、その蛮刀は、弾き返された。
『なんだってぇ!?』
エキドナは、シュベルトライテの横に突如として現れた、光り輝く人影に驚愕の声を上げた。あと一息で、永年の戦いに決着がつく、その土壇場で一体、誰が邪魔立てしたのかとその目を凝らした。
光の先に、男が立っていた。その男は、シュベルトライテの肩に手を廻して、彼女を支えている。シュベルトライテが見上げた先には、彼女の望む存在の姿があった。
「随分と俺の女を可愛いがってくれたじゃないか!!ここからは、こっちの番だ!!倍返しじゃすまないからそう思え!!」
黒き獅子の鎧を纏い、白銀の刃と真紅の柄をもつ剣を構えた銀髪の戦士。ジークフリートの声が、グランネイドルの街に轟いた。
ようやくジークフリート帰還です。一体グラズヘイムで何があったのか?
それが、語られるのは、もう少し先です。
以下次回!!