剣の舞
一滴、一滴と赤い滴が流れ落ちる。それは、シュベルトライテの額から流れ落ちる血液であった。右手も、だらりと下がり、肩口からも、血が滴り落ちている。
『女神様の身体にも、赤い血が流れていたんだねぇ!だけど、それ以上の血を私達魔神族は、流し続けて来たんだ!!今止めを刺してやるよ!!』
エキドナは、女胴蛇の翼 を羽ばたかせ、シュベルトライテに突っ込んで行く。だが、それよりも速くシュベルトライテの裂帛の気合を込めた声が轟く。
『正義の力!!』
シュベルトライテの背中から、光の翼が展開される。と、次の瞬間、シュベルトライテの姿が消えた。いや、消えたように見えただけだ。エキドナの知覚を凌駕する速度で飛んだのだ。そして、衝撃がエキドナを襲う。
『グアッ!!』
次々とエキドナの身体に衝撃が走る。空中で、風に翻弄される木の葉のように、右へ左へと揺さぶられる。
「空中戦では、私に分があるようですね。このまま、倒させてもらいます!!」
その声に、エキドナが怒りで震えた。
『舐めるんじゃないよ!!』
その怒号と共に、エキドナの背面から、赤い宝石の眼がズラリと現れる。
『射纏煌!!!!』
真紅の光の矢が、全方位にばら撒かれ、シュベルトライテにも殺到する。
「クッ!?」
シュベルトライテが避けるが、光の矢の何本かが、まるで意志を持つ様に追尾していく。
『私の魔力が尽きぬ限り、その矢はアンタに当たるまで追うのを止めないよ!!』
その言葉を聞くなり、シュベルトライテは空中で静止する。十本以上の光の矢が、シュベルトライテ目掛けて襲いかかる。
しかし。
「フッ!!」
シュベルトライテの左手が霞むと同時に、光の矢は全て砕け散った。
「これも、当たった内に入るのではないですか?」
シュベルトライテの落ち着いた声に、またしても逆上するエキドナ。
『私の魔力は、まだまだ尽きちゃいないよ!!赤光千撃!!!』
エキドナは、女胴蛇の特殊技能を発動させる。その様は、エキドナを中心に咲いた、光の雨である。
「無茶をする。しかし、貴方の魔力も無限ではありません」
シュベルトライテは、回避しながら、光の矢を的確に撃ち落としていく。
「まだまだ、私は戦えます!」
その言葉と共に、再びシュベルトライテが掻き消える。そして、エキドナを襲う衝撃。
『また、それか!!だが、そう何度も同じ手は喰わないよ!』
だが、エキドナもそれを読んでいた。爆発するエキドナの闘気によって相殺されるシュベルトライテの攻撃。
「これほどまでとは・・・」
シュベルトライテもまた、エキドナの執念に舌を巻いていた。エキドナの二つ名である舞刀神と言う名は伊達ではないと、改めて、自分の前に立つ魔神族の戦士の強さを認識した。
「命懸けということになりますか。これは・・・」
シュベルトライテは、決死の覚悟を決めねばならぬと、ほぞを固めた。エキドナの魔技の威力から、石化したドゥベルグの守備兵を守る為、相殺出来なかった威力を自分自身の身体で受け流さねばならなかった為に陥った危機であったが、シュベルトライテに後悔は微塵もなかった。何故ならば・・・。
「私は、正義を司る者!!その意思は、鋼よりも強固と知るがよい!!エキドナよ!!」
シュベルトライテの右手に、再び力が戻る。彼女の鋼の意志が、身体の限界を凌駕した瞬間であった。
そこへ、降り注ぐ千に及ぶ光の矢。その中心で、構えるシュベルトライテの闘気が、膨れ上がる。
『その正義と共に死ぬがいい!!ヴァルハラの女神め!!』
エキドナは、光の矢に魔力を注ぎこむ。威力と速度が倍と成り、シュベルトライテを覆い尽くたその時、シュベルトライテの凛とした声が響いた。
「いざ!!咲き誇れ!!千弁万華!!」
本日、二度目となるシュベルトライテの神技が炸裂した。
エキドナとの戦いに決着がつきそうですが、まだまだ、波乱がありそうです。
以下次回!!