女神達の危機
ニーズホッグと対峙したジークルーネであったが、苦戦は免れない状況に変化は無かった。その様子に、守備兵弩弓隊の隊長が声をかける。
「女神様!防御だけではこちらに勝ち目はありませんぞ!!ここは反撃の一手あるのみ!!」
「それは承知しているのですが・・・」
ニーズホッグが、再びジークルーネの結界に激突する。その度に、ジークルーネの顔が、苦悶の表情を浮かべる。
「何故!反撃せぬのですか!!」
「私は、魔法に特化した女神なのです・・・この特殊な地形で、広範囲攻撃魔法を使えば、グランネイドルそのものが消え去ります」
ジークルーネの解答に、隊長の顔は青くなった。
「な・・・なんとかならぬのですか?」
「火炎系の魔法では、地底湖の水と反応し、巨大な水蒸気爆発を引き起こすでしょう。雷撃系の魔法では、グランネイドルまでその影響を及ぼしてしまい、使用できません。爆裂系は論外ですし・・・」
そこまで説明した所で、ジークルーネの後方の城壁で、大きな爆発が起こった。それは、シュベルトライテの神技とエキドナの魔技が引き起こした爆発であった。
「あちらも、余裕はないようですね」
「女神様!!」
弩弓隊隊長の緊張を含んだこえが響き、ジークルーネが振り返った先には、蜥蜴人の兵士が、壁を乗り越えて現れていた。ニーズホッグの応援にやってきたものらしい、その戦意は高く、目的がジークルーネであることは明白であった。
「全員守備隊形!!女神様をなんとしてでも死守せよ!!」
生き残りの守備兵達は、一斉に守備陣形を形成する。前衛が片膝をついて弩弓を構え、二列目は、立って弩弓を構え、後衛の三列目以降は、弩弓の矢の装填に取り掛かる。蜥蜴人達は、陣形も組まず、数で押し破る気で殺到して来る。
「第一陣!!放て!!」
魔導兵器の中でも、弩弓などの武器は、貫通力や飛距離を高めるよう製造されている。対人戦闘などでは、その威力は遺憾なく発揮されるのであるが、蛇神鎧を全身に纏った蜥蜴人相手では、その威力は半減してしまう。
「関節部を狙え!行動さえ封じてしまえばよい!!」
弩弓隊隊長が、部下に命令を下すが、それよりも先に、蜥蜴人の一人が、何かを投擲する。それは、蛇神鎧に装備されたスリングショットである。内蔵されたバネが弾き出した鉄球が、弩弓隊の兵の一人に命中する。頭部を破壊された兵が崩れ落ちる。
「このままでは、いずれ押し破られますぞ!!」
弩弓隊隊長の悲痛な声を前にしても、ジークルーネには、事態を打開する余力は残されていなかった。
「どうか、間に合って下さい。ご主人様!!」
ジークルーネは、一縷の望みである、ジークフリートの名を口にした。それは、祈りにも似た行為であった。
一方、神技と魔技の激突によって、エキドナは空中へと放り出されたいた。いかに、エキドナの纏う女胴蛇が強靭であっても、この高さから落下してしまえば、ダメージを負うのは目に見えていた。
『クッ!?重羽龍亜霊!!』
その言葉と共に、エキドナの背面、そして下半身の付け根と中間から、赤い色の光の翼が出現する。ブリュンヒルデ達の、天使の翼を彷彿とさせるものではない。ドラゴンの飛翼のような、光子の骨と皮膜で作られた翼である。
空中で体勢を整えたエキドナは、改めて自分の姿を見て驚愕した。仮面の上半分は、邪眼の在った部分が大きく破損し、エキドナは、裸眼で自分の姿を見ている。白銀の甲冑は、ボロボロに罅割れ無残な状態である。だが、エキドナ自身には目立った傷は見受けられなかった。
『流石は、ヨルムンガルド様に頂いた蛇神鎧、そういえば、あの女神はどうなったのかねぇ・・・』
エキドナは、爆発の起きた城壁に目を向けた。粉塵の舞うなか、シュベルトライテの姿が見えて来た。その姿に、エキドナはニヤリと笑みを浮かべた。
一体、シュベルトライテはどうなっているのでしょうか?
そして、追い詰められていくジークルーネ達。この危機的状況に、救いの手は差し伸べられるのか!?
以下次回!!