女神ブリュンヒルデ
眩い光が大聖堂に溢れると同時に、バカン!という炸裂音と共に女神の封石は砕け散った。シグルドは、降り注ぐであろう破片から逃れるべく、地に伏せた。しかし、その予想とは裏腹に、破片は一つたりともぶつかって来なかった。
改めて、顔を上げてみると、そこには幻想的な光景が広がっていた。封石の破片が、空中で静止し漂っていたのである。
封石の中心からは光が溢れ出し、その光の洪水の中から、シグルドの前に一柱の女神が降り立った。そして、光が収束し封石に吸収されると、封石は女神を宿さぬままに元の結晶の姿に戻った。空洞はまるで女神が、まだそこに居るようである。
そして、女神は、シグルドの前にやって来て片膝をつき、右の掌を左胸に当て、その頭を垂れた。それは正に、臣下の礼に外ならなかった。女神はそのまま、凛とした張りのある声でジークフリートに名乗りを挙げた。
「我が名はブリュンヒルデ!今日よりあなたと共に歩み、死する時まで傍にある者。この身と我が魂を、永遠にあなたに捧げましょう」
つい先程、実の父と感動の別れをしたばかりであったが、ブリュンヒルデの名乗りを聞き、ジークフリートは別の意味で泣きたくなった。
(今世紀最大級の死亡フラグキターーーーーーーーー!!!)
ジークフリートの中にいる、異世界人である自分がそう警鐘を鳴らす。何故なら、彼女こそ北欧神話において、ジークフリートとの愛憎の果てに、彼を殺す女神であったからだ。
(どうして俺がジークフリートなんだよ!それに思い出の女神の名が、よりによってブリュンヒルデだなんて有り得ないだろう!!)
あまりといえば余りの展開に、思考が停止し固まってしまったシグルドを、ブリュンヒルデは不思議そうに見上げていたが、ふと、ある事を思い出しニコリと微笑んだ。
シグルドは、未だ混乱の極致の中にいた。
(ようやく過去の自分の記憶が戻ったっていうのに、思い出の女神様が、よりによって俺を殺す運命にある女神の名を冠しているなんて!!いや!おかしいぞ・・・確か俺の知っている話では、ブリュンヒルデが封じられていたのは炎の壁の中じゃ無かったかな・・・?)
そこまで考えたシグルドの唇に、柔らかいものが重ねられた。シグルドは、そこでようやく我に返った。ブリュンヒルデが立ち上がって、ジークフリートに口づけをしてきたのだ!女性経験が皆無であったジークフリートは、全身が真っ赤になった。
そして、触れるだけだが、長いキスを終えたブリュンヒルデが、ゆっくりと離れ、頬を赤く染めながら、上目使いでこう言った。
「ともあれ、これから末永く頼むぞ!主殿!」
(・・・いつからこの話は、シリアス系から萌え系の話になったんだよ!!!!)
余りの理不尽な展開に、ジークフリートは心の中で絶叫した。
ヒロイン出ました!カラスです!長かったね。反省!!