蛇将の舞
グランネイドルを取り囲む地底湖から出現した物体は、激しい波を立て近づいて来る。それは、蛇神鎧に身を包んだニーズホッグであった。しかし、その姿は異様である。かつて、単独でグランネイドルの攻略に挑んだ時は、蛇らしく、その上半身は余計な筋肉の付いていないホッソリとした外見であったのに対し、ニーズホッグの纏った蛇神鎧は、重厚な、それこそ重戦士の重装甲のような重装備であり、両手を丸めた姿は、巨大な鉄球を彷彿とさせるものであった。その上半身を、蛇の下半身で、大きく振りかぶり、鉄球となった上半身をグランネイドルの城壁に叩きつけたのだ。
ドッゴオオオオオオオオン!!!
流石のグランネイドルの城壁も、その巨大な質量の激突に耐えることは不可能であった。大きく罅が入り、城壁の上に居た数名の守備兵達が、衝撃に耐えきれずに、城壁外へ落ちて行ってしまった。彼等ドゥベルグの纏っている魔導甲冑は、触媒への収納が出来ない。地底湖に落ちてしまっては、とても助かるまい。
『フハハハハ!!見たか!!我等が蛇王、ヨルムンガルド様に頂いた蛇神鎧の力は!!その様な城壁など、最早、紙も同然よ!!粉々に打ち砕いてくれるわ!!』
哄笑を散らしながら、ニーズホッグは再び上半身を振りかぶる。鈍色の鉄塊が、再び撃ちつけられようとしていた。
その様子は、シュベルトライテの場所からも見えていた。しかし、目の前の敵が、彼女の行動を妨害していた。そう、蛇将エキドナである。人間では有り得ない挙動から繰り出される攻撃は、シュベルトライテを翻弄していた。
だが、シュベルトライテもまた剣の女神として知られた戦乙女である。その軌道と攻撃の範囲を計り、反撃の機会を伺っていたのだ。大振りに振り抜かれた上半身を見切り、ガラ空きとなった下半身へ、竜斬刀を振るおうとした。
『射纏煌!!』
エキドナの叫びと共に、蛇身に纏った、白銀の鎧の継ぎ目、金色のスリットから、その仮面に付けられたのと同じルビーが、ズラリと並んで出現し、真紅の光の矢を射出した。
「くっ!?」
百は下らないその光の矢を、シュベルトライテは、その恐るべき身体能力で回避する。時には、竜斬刀で弾き、跳び躱す。
『自分の弱点は、補うものだろぅ?しかし、アレを初見で躱すかねぇ。やはり、戦乙女は化け物だね!!』
エキドナは、再び間合いを詰めると、緩急を織り交ぜ、更に攻撃のバリエーションを追加した。
彼女は、一万年もの永きに渡って生きて来た蛇将である。ヨルムンガルドに仕えるまでは、蛇女の一族を守り抜いて来た酋長であった。その経験によって蓄積された戦闘技術は、人間のそれを遥かに上回るものだ。
シュベルトライテを、ここに釘付けにするどころか、圧倒しさえするその姿は、同じ蛇神族である蜥蜴人達を大いに勢い付かせた。
そこへ、再びニーズホッグによる衝撃が、城壁を振るわせた。ドゥベルグ達は、成す術なく膝を付く。
シュベルトライテは、逆に地を蹴り、空中へ身を躍らせ、反撃に出た。
『それを待っていたぁ!!邪眼発動!!』
仮面の眼から放たれた、赤い閃光がシュベルトライテを襲う。シュベルトライテは、咄嗟に竜斬刀を眼前に翳した。そのおかげで、エキドナの石化攻撃を間一髪で、躱す事が出来た。彼女もまた、自他合一の境地を会得していた為、エキドナの魔力が、目に集中したことを察知出来たのである。では、そうでないものはどうなるのか?その答えは、シュベルトライテの後ろにあった。ドゥベルグの守備兵達は、物言わぬ石像の群れとなっていたのである。
まだ、エキドナさんのターン!!
シュベルトライテは防戦一方です!!
以下次回!!