蛇身剣術
『・・・これはとんでもない大物が釣れたね』
既に浮足立ってしまった蜥蜴人達を下がらせると、エキドナは、シュベルトライテの前に立ちはだかった。
『こうして顔を合わせるのは初めてになるのかねぇ?先の大戦においては、私も蛇神姫に乗って戦っていたから、素顔で対面するとは思わなかったよ』
シュベルトライテは、蛇神姫と聞いて目の前の敵が、先の大戦においても戦った戦士だと知った。しかし、一つ気に食わないことがあった。
「こちらは、貴方の素顔とやらは、仮面で覆われていて見えないのですが・・・そうですか、貴方があの舞刀神と呼ばれたエキドナですか」
指摘されて、エキドナは、自分が女胴蛇を纏っていることを思い出した。
『あっははは・・・これは失礼したねぇ』
そう言うと、エキドナは仮面をスライドさせて、その素顔をシュベルトライテの前に晒した。
「・・・っと!これでいいかい?では、改めて名乗らせてもらうよ!私の名は、蛇将エキドナ!蛇王ヨルムンガルド様の腹心にして、その身命を捧げし者!出来れば、あの小賢しい紅の戦姫が相手なら良かったんだが。アンタでも充分だ!!」
エキドナは、再び仮面を被り直すと、円月刀を構え、シュベルトライテに相対した。
『ヨルムンガルド様の為!アンタにはここで死んでもらうよ!!』
エキドナは滑るように、シュベルトライテに肉薄する。対するシュベルトライテも、風の如くエキドナに詰め寄る。二人の武器が、音を立ててぶつかり合った。二人、共に二刀流で戦うスタイルである。その攻撃は淀みなく、流れるような斬撃が飛び交い、まるで互いに舞を舞っているようである。
シュベルトライテの猛攻を、エキドナの経験によって裏打ちされた技術が迎え撃つ。正直な所、シュベルトライテも、これほどとは思っていなかった。予想外の強敵である。しかし、それでもシュベルトライテの優位に変りはない。
チュイン!!
エキドナの仮面に、シュベルトライテの竜斬刀が掠める。次第に、エキドナの攻撃を上回り、シュベルトライテの攻撃が当たり始めたのだ。だが、エキドナに焦りの色は、全くと言っていいほど感じられなかった。
『なるほどねぇ!!流石、戦乙女といったところか、正攻法では、やはりこちらの上を行かれる。けどねぇ・・・』
そう言うと、エキドナは大きく後退した。シュベルトライテは、完全に虚を突かれた。何故なら、エキドナは予備動作無しに、恐ろしく速く引いたからである。
「な!?」
踏鞴を踏んだ形となったシュベルトライテに、エキドナの剣が再び襲いかかる。今度は地面すれすれに、横殴りの形で、エキドナが斬りかかって来た。即座に対応できたのは、シュベルトライテの卓越した戦闘のセンスによるものだろう。彼女は、勢いのままに地を蹴ると、空中で一回転しながら、エキドナの剣から身を躱し反撃した。
しかし、またしてもその攻撃が届く前に、エキドナはシュベルトライテの斬撃の範囲の中から脱してしまう。
体勢を整えて、立ち上がったシュベルトライテが見たのは、自分の倍以上の高さから見下ろすエキドナの姿だった。
(なるほど、そういうことですか・・・)
シュベルトライテは、納得した。そう、相手は下半身が蛇なのである。その上半身は、蛇の身体でいえば、頭の部分に相当し、自在に動かすことが可能なのだ。根本的に、人間の戦い方ではない。種族が違う時点で、その肉体の特性を活かして戦うのは当然のことだろう。
とすれば、人間に対するような戦い方では、翻弄されるのは目に見えている。だが、シュベルトライテが打開策を得る前に、事態は更に動き出した。
突如、城壁から見える地底湖の中から、巨大な人型の金属の塊が、姿を現したのだ。
『どうやら、本命が行動を開始したようだねぇ』
エキドナの言葉と共に、グランネイドルの城壁が、大きな音と共に揺さぶられた。
エキドナさん以外に強いですね!ヴィーグリーズでは、相手を甘く見て、女胴蛇を使用しなかった為、リンドブルムさんにいいようにやられてしまいましたが、いよいよ、真骨頂発揮です!
更に、ニーズホッグが、蛇神鎧に身を包んで、やって来ました。どうする!シュベルトライテ!?
以下次回!!