石化の邪眼
蛇将エキドナの号令一下、蜥蜴人の戦士達がグランネイドルの城壁に取り付き、昇り始めた。なんの取っ掛かりもない城壁であるが、彼等の蛇神鎧の付属効果によって支障なく、起伏の一切ない壁を垂直に登っていく。手足の装甲が彼等の意志に従い、壁に吸着と離脱を繰り返しスルスルと勢い良く登る彼等は、城壁の上にいたドゥベルグの守備兵達に気付かれることなく、壁を乗り越えてしまった。ドゥベルグの守備兵達が気付いたのは、蜥蜴人の第一陣が、城壁の上に姿を現した後であった。蜥蜴人達は、守備兵達が応援を呼ぶ前に、手際よく守備兵達を殺していく。そう、彼等は、こうした奇襲攻撃を得意とする訓練された精鋭であるのだ。
しかし、ドゥベルグの守備兵達も無能ではない。元々、シュベルトライテの警告によって、襲撃が必ずあると知らされていた守備兵達は、十人一組の小隊ごとに行動していた。突如、襲撃されたにも関わらず落ち付いて他の小隊に救援を求めたのである。
エキドナは、予想外にドゥベルグ達が組織的に動けているのを見て、直感的に悟った。
(こちらの奇襲が、予想されていたようだね・・・相手の被害が、想定より少ない。・・・戦乙女を相手にするのは、厄介なことこの上ないね)
エキドナは、襲撃部隊である蜥蜴人の中を進んで行くと、防戦しているドゥベルグの守備兵の前に躍り出た。守備兵達の小隊長は、蜥蜴人の中から現れた蛇神族が、敵の将であると判断すると、戦斧を振るって、敵兵の中に突っ込んだ。
「貴様を倒してしまえば!!」
守備兵といえども、その身に纏うのは、ドゥベルグの首都、グランネイドル産の魔導甲冑である。その出力は、蜥蜴人達の纏う蛇神鎧に匹敵する。それを力においては上回るドゥベルグが着ているのである。強引に蜥蜴人達を抜けると、エキドナに飛び掛かった。
『良い判断だけど・・・相手が悪かったね!邪眼発動!!』
エキドナの魔力が、瞳に集中すると、仮面に取り付けた真っ赤なルビーが輝きを放つ。
「な!?」
ドゥベルグの小隊長は、その一言を最後に、意識が途絶えた。空中で動きが止まったドゥベルグの小隊長を、煩わしいとでもいうように、女胴蛇の装甲に包まれた尻尾で弾き飛ばした。
そのまま、城壁に叩きつけられたドゥベルグの小隊長の身体は粉々に砕け散った。魔導甲冑の間から覗く小隊長の身体は、石と化していたのである。
『これが、任意の敵を石化させることの出来る邪眼さ!次に石になりたい奴は誰だい?』
その光景を目の当たりにした守備兵達が怯んだ隙を、蜥蜴人達は見逃さなかった。一気に崩される守備兵達、戦局は一気に蛇神族の側に傾いた。
その時である。グランネイドルの街全体に響くように、角笛の音が響き渡った。蛇神族の襲撃を告げる警笛である。
『チッ!止められなかったか!・・・まあ、いいさ。ここからは、じっくりと事を進めるとしようかい』
すでに、蜥蜴人達の一隊が、グランネイドルの街に侵入し、制圧を始めているはずだ。自分はこのまま、ブロック王の首を取りに行けばよい、そう考えたエキドナは、城壁内部へ降りて行こうとした。
しかし、突如、ドゥベルグの守備兵達と戦っていた蜥蜴人達が吹き飛んだ。
『!?!?』
吹き飛んだ蜥蜴人達は全て、その首が胴と離れていた。呆気にとられるドゥベルグの守備兵の中から、一人の美しい人間の女性が、音もなく現れる。その手に持った双剣を静かに構え、エキドナ達に向け、その名を名乗り挙げた。
「正義を司る女神にして、オーディン神が次女たるシュベルトライテ!!義によって助太刀いたす!!」
その声は、ドゥベルグの守備兵達に、再び勇気を与え、反対に蜥蜴人達にとっては恐怖を与えるものであった。
エキドナの前に、現れたのは、剣の女神シュベルトライテです。
二人の間で繰り広げられる死闘は、一体どうなることでしょうか?
以下次回!!