報復の軍勢
シュベルトライテが現在立っているのは、グランネイドルの城壁の上である。このグランネイドルは、ニダヴェリールで最も巨大な空洞に造られた街で、その中心、ブレイザブリク城は、元々この大空洞の中央に存在した自然石で出来た石柱であった。それをドゥベルグ達が加工し、更に補強することで、見事な城となっている。その周辺に、切り出された石を再利用し、家屋を建造していき今の姿になったのである。この辺りの技術について、ドゥベルグ達の右に出る種族は存在しないだろう。重厚に計算されつくして造られた城壁の堅牢さに感心しながら、シュベルトライテは、共について来たドゥベルグの兵達を連れて歩いていた。混沌の水に浸かっていた、城壁下部の構造に不備が出ていないかの確認の為である。当初は、遠慮していたドゥベルグ達も、シュベルトライテの真摯な態度に突き動かされ、報告や、連絡に余念がない。
「女神様!!城壁北側は異常ありません!!」
「南側も同じく、異常は見当たりません!!」
警備兵の隊長が進み出て、シュベルトライテの意見を仰いだ。
「本当に、魔神族は再び攻めて来るでしょうか?このグランネイドルの城壁は、混沌の水に浸った所で、さほどの痛手は負っていません。こちらの守備兵力も元通りとなっています。それでも・・・」
「彼等は来ます」
きっぱりと言い切るシュベルトライテに、ドゥベルグの警備兵達は不思議そうに、互いに顔を見合わせていた。
シュベルトライテは、鋭い眼差しで地底湖を眺めながら、振り返ってこう続けた。
「知っていますか?蛇というのはしつこいのですよ」
それは、蛇神族の習性でもある。彼等は、仲間の仇を討つことに執着することで有名である。そして、自らの敗北も、生きている限り、その報復に一生を費やす個体がいることで知られていた。
「敵の将は、蛇王ヨルムンガルドの配下。今頃は、復讐に燃えて、こちらに向かっているかもしれませんよ。警備の兵は、満つに連絡を絶やさないように!」
「りょ・・・了解であります!!」
警備兵の隊長は、慌ただしく配下の兵達に、指示を出し始めた。
しかし、シュベルトライテの予感は、悪い方向へ当たっていた。タングニョーストが突き刺さったままの城門のすぐ外の湖面の下では、すでに蛇将、エキドナの率いる蜥蜴人が群れを成して犇めいていたのである。
『フフフ・・・あたしの得意とする水の幻惑魔法は、こちらからの視界は妨害されず、外からは、こちらを認識させないのさ!!』
エキドナの視線の先には、忙しく動きまわるドゥベルグ達が見えていた。どうやら、こちらの動きを読んでの警備の増強らしいが、相手には、エキドナ達の陰さえ見えていなかった。
『これが、幻惑の将たるあたしの真骨頂よ!!だいたい正面からなんてガラじゃなかったのよね!!』
『エキドナ様』
水の中で、大声を出して、城壁の警備兵達の間抜けぶりをあざ笑っていたエキドナに、蛇神鎧に身を包んだ蜥蜴人の戦士が話しかけた。
『なによ・・・ボティス、今いいとこなのよ・・・』
『ニーズホッグ様の準備が整ったそうです。こちらも、突入準備が完了しました。貴方様も、蛇神鎧をお付け下さい。今度は、不覚を取らぬように、お気を付けて・・・』
そう言うと、ボティスと呼ばれた戦士は、自らの持ち場へと去って行った。
『洒落の通じない奴・・・でも、そうね!あたしも負けるのは嫌いだし!!』
両手に持った円月刀を交叉させると、その柄頭に装着された宝玉が輝く。
『さあ、行くよ!我が鎧、女胴蛇!!』
銀灰色の鎧が、全身を包み込み、エキドナの美貌を、眼の部分に、大きな赤いルビーが嵌めこまれた仮面が覆う。兜からは、銀色の蛇が、まるで生きているように蠢き、仮面のルビーが妖しく輝いた。
メドーサってギリシャ神話じゃねえか!!って突っ込まれそうですが、そうです。アレです!皆さんの思っている通りです!!
てな所で、以下次回!!




