蛇神の鎧
ジークフリートが、虹の橋に乗ってグラズヘイムに向かう所から、時間は少し遡り、ニダヴェリールの首都、グランネイドルの襲撃に失敗したニーズホッグは、迷宮のようにいりくんだ地下水道を通り抜け、グランネイドル攻略の拠点である自分の陣地へと帰還していた。
『ヌウゥ・・・何と言うことでしょうか。まさか、混沌の水があのようにアッサリと無効化されてしまうとは・・・地底湖を完全に混沌の水に変える為に、私が一体どれほどの血を流したことか・・・』
そう、混沌の水の生成には、彼自身の血液が必要だったのである。そのため、彼は三か月の間、地下水脈に少しずつ自身の血を混入していたのである。一定量を超えてしまえば、地底湖は一瞬で混沌の水に変じるが、それまでは毒としての効果は麻痺や混乱などといった低いものに留まってしまうという扱いの面倒なものであったが、彼が神と崇める蛇王ヨルムンガルドに命じられたのは、ニダヴェリールのドゥベルグの懐柔か、殲滅である。しかも、どうやらヨルムンガルドは、ドゥベルグの持つ、魔導科学の技術を欲しているようであった。そのために、わざわざ時間をかけ、混沌の水を造り出し、グランネイドルを盾に、ブロック王に降伏を要求するつもりでいたというのに、その作戦は、突然、現れた謎の全身鎧の戦士に、混沌の水を浄化されてしまい、彼の作戦は、水泡と帰してしまったのである。しかも、彼の苦手な打撃武器を使ってくる始末、せめて剣などで挑んできたのなら、こちらにも、好機はあったであろうが、下顎を完全に粉砕するほどの一撃を受け、大事を取って退却してきたのであった。
『クソッ!!忌々しい神の血族めが!!』
その巨大な腕を大地に叩きつけると、地面が揺らぎ天井からパラパラと石が降り注ぐ、巨大な身体を持つ彼からすれば、それは小石にしか過ぎないが、彼と共にスヴェルトアールブの攻略にやって来た配下の蛇神族である蜥蜴人達にとっては、大岩といっても過言ではない大きさである。
ニーズホッグの足下を、蜥蜴人達が、右往左往して岩を避ける中、甲高い女性の声が響き渡った。
「落ち着きな!!ニーズホッグ!!」
ニーズホッグは、その声の主に顔を向けた。そこには、美しい女性の上半身と、蛇の下半身を持つ存在、ラミアという種族である蛇将エキドナであった。
『エ、エキドナではないですか!?まさか、私の作戦が不備に終ったので、貴方が代わって指揮を執りに来たのですか?』
「はあ?」
エキドナの態度からして、自分が更迭される訳ではないと知って、ニーズホッグは、これまでの経緯をエキドナに洗いざらい話した。エキドナは、ヨルムンガルドの配下の中でも、仲間を大切にすることで知られた将であった。それゆえ、ニーズホッグは、恥を忍んで彼女に相談することにしたのだった。
話を聞いていたエキドナは、ヴィーグリーズに現れた戦乙女が、このニダヴェリールの地へ来ていると直感した。
「ニーズホッグ、お前に会いに来たのは、まさに、そいつらに関する事なんだよ」
エキドナは、ヴィーグリーズでの戦い、そして、その戦いで出現した魔導戦姫によって、あのヨルムンガルドでさえ、撤退せざるをえなかったことをニーズホッグに告げた。
『そんな!!ヨルムンガルド様はご無事なのですか!?』
「当たり前だろ!!ヨルムンガルド様は現在、他の御兄弟と共に、本国へ戻り、蛇神機の復活に努めているんだよ!!」
蛇神機の名を聞き、ニーズホッグは奮い立った。
『蛇神機!!天を覆い尽くす破滅の蛇、ミッドガルドですか!!』
「その通りだよ。だけど、それまでに奴等に出会った時の為に、蛇神鎧を装備するようヨルムンガルド様が命じられたんだよ」
そう言うと、エキドナは懐から水晶球を取り出し、ニーズホッグに向かって掲げた。水晶球から闇が迸り、ニーズホッグの身体にまとわり付く。闇が収束すると、それは鎧へと姿を変える。鈍色の装甲には、魔導装甲とは異なる形式の刻印が刻まれていた。これが、魔神族がそれぞれの種族ごとに持つ鎧、蛇神族専用の魔神鎧、それが蛇神鎧である。
『おお!!力が漲って来る!!これならば、奴等と戦っても勝てる!!勝てるぞ!!』
洞窟内が、ニーズホッグの歓喜の声で震え、再び天井から岩が降り注いだ。
ニーズホッグさん、そして、エキドナさんが再び登場!!
グランネイドルに残る、二人の女神は、いかにしてこの敵と戦うのか!?
以下次回!!