勇者への道
これまでの試練の中でも、最大の難関を見事に突破したジークフリートは、ヘイムダルの居城であるヒミョンブルグの入り口で、その主であったヘイムダルの死体となった残骸を前に戸惑っていた。
「しかし、良かったのか?ヘイムダルは、天界の守護者であり、虹の橋の番人だったのだろう?彼が居なくなってしまっては、グラズヘイムの門である、あの虹の橋は誰が守るんだ?」
ジークフリートの心配は最もであった。いかに天界に向かう道が、戦乙女にしか開けないにしても、虹の橋が機能しなければ、グラズヘイムへの行き来もであるが、戦乙女の本領を発揮する為に必要な、魔導神姫の召喚も不可能となってしまうのではないかという懸念があったからである。
『心配は無用である!!』
突如として、頭上から先程の死合でジークフリートに両断されたはずのヘイムダルの声が響いて来た。
ジークフリート達が見上げた先には、ヒミョンブルグの宮殿の入り口に立つ巨像の姿があったが、その胴体に罅が入り始め、その破片が、ジークフリート達に降り注いだ。慌てて距離を取るジークフリート達の前で、石像がゆっくりと立ち上がる。
いや、それは石像などではなかった。石像の中から現れたのは、金色の装甲に身を纏った鋼の機神であった。
「まさか、ヘイムダルなのか!?」
ジークフリートが、驚きながら尋ねると、機神は、その赤く輝く眼をジークフリートに向け、返答した。
『まさに、吾輩はヘイムダルである!』
「じゃあ、ここに転がっているこれはなんなんだよ!!」
ジークフリートが、足元に転がったヘイムダルの死体を示す。
『それも、吾輩の身体の一つであるが、本体はこっちの方であるからして、何の心配いらないのである!!』
ジークフリートは、一気に肩の力が抜けた。命懸けであったのは、どうやら自分だけだったようだ。
『誤解しないでもらいたいのだが、お主との戦いにおいて戦ったのも、吾輩自身であるぞ!どちらか片方でも存在していれば、吾輩の魂を補完できる機構である。ゆえに、お主は紛れもなく吾輩に勝利したのである。さあ!天界への道へ進むのである!勇者ジークフリートよ!!』
ヘイムダルの指差す方向には、巨大な虹の橋が天へと伸びていた。見上げてみても、その行きつく先は、全く見えない。しかし、不思議と恐怖や不安は感じられなかった。あるのはただ、未来という、未知の世界へ乗り出すことへの期待と、前へ踏み出すことへの勇気、そして、それを自分に与えてくれた、仲間への無上の愛であった。
ジークフリートは、改めて仲間の顔を見た。守護の女神、ブリュンヒルデ、勇気の女神、ゲルヒルデ、慈愛の女神、ヘルムヴァーテ、炎の魔剣の化身、ヴィー、ヴィーグリーズのガルガンチュア王の娘にして、紅の戦姫たるリンドブルム、頼もしい仲間を前に、ジークフリートは最早、一歩踏み出すことを躊躇しなかった。
「じゃあ、行こうか!!この先に何が待っているのか、確かめにな!!」
ブリュンヒルデが、ジークフリートの前へ進み出て、その手を取って走りだした。
「主殿!!いや、ジークフリート!!貴方は紛れもなく勇者となった!!共に世界を救おうぞ!!」
「あっ!?待てブリュンヒルデ!!お前だけズルいぞ!!」
「そうっスよ!!姉さん、ズッこいっス!!」
「あ~待って下さい~」
『やれやれ、落ち着きがないのう・・・』
ジークフリートの雄姿を前に、抑えが効かなくなったブリュンヒルデを筆頭に、ジークフリート達は、ヒミョンブルグを通り抜け、グラズヘイムへと続く虹の橋へと跳び込んで行った。
『ジークフリートよ。お主の往く道はこれからも困難な試練が待ち受けているだろう!だが、吾輩は信じておるぞ!!いつの日か、お主がこの世界の真の救世主になることを!!』
ヘイムダルの声が、ヒミョンブルグに響き渡った。彼も、いつか本当に自分を倒すことの出来る勇者の到来を、心から待ち受けていた者の一人であったからである。
ジークフリート、勇者認定の巻です。
そして、舞台は天界、グラズヘイムへ・・・。
そこで、ジークフリートを待つ者とは!?
以下次回!!




