新たな力
ジークフリートは、一方的に攻められ続けていた。頼みの綱であった自他合一の境地が完全に機能していない為である。
(そもそも、魔導機神は呼吸を必要としない。カウンターが通用しない時点で、こっちは圧倒的に不利じゃないか・・・)
打開策を練ろうとするも、時が経てば経つほどに、出血の量が増し、防御もおぼつかなくなってきた。
(このままでは・・・殺られる・・・なんとか・・・なんとかしなくては・・・)
心なしか、意識も朦朧としてきたが、自分を叱咤し、ヘイムダルの攻撃を紙一重で避ける。しかし、反撃の糸口が見つからない。あの雷帝と謳われたガルガンチュアにも打ち勝った自分が、こうも手玉に取られている状況に、ジークフリートは焦りを覚えていた。
「このままだと拙いな・・・」
そう呟いたのは、ブリュンヒルデである。ゲルヒルデとリンドブルムも敗戦の色が濃厚となっていくにつれ、気が気ではなくなっていただけに、ブリュンヒルデの言葉に敏感に反応した。
「何が拙いと言うのだ!ブリュンヒルデ!」
「そうっス!聞かせて欲しいっス!!」
食ってかかって来る二人に、チラリと視線を向けると、ブリュンヒルデは再び、ジークフリートとヘイムダルの戦いに、視線を戻して、そのまま答えた。
「主殿は、魔神族の血を引いているのは知っていよう。このままでは、再び血の暴走が起こりかねん。そうなれば、闘争本能のままに戦う主殿など、ヘイムダルにとっては赤子も同然に倒せる相手となってしまうだろう」
「そんな!?」
「どうすればいいんスか!?」
ブリュンヒルデも、ジークフリートの危機に、あらん限りの知恵を振り絞るつもりでいたが、死合には、何人も手出しが出来ないと心得ているだけに、どうしようもない現状にやきもきしていた。
それがために、自然に己の内から湧き上がってきた言葉を、そのままジークフリートに叩きつけた。
「ここで終ってしまうのか!!ジークフリートよ!!そなたの勝利を信じる者!そして、共に故郷の再建を誓った者達に何と言って詫びるつもりだ!!」
突如として、叫び出したブリュンヒルデに、他の者達は仰天していたが、その言葉は、ジークフリートの心を揺さぶった。そう、前にも似たようなことがあった筈だ。そして、その時も、最後の力を掴むきっかけをくれたのは、彼女であった。
『無駄だ!!オーディン神の姫君!!この一太刀で終りである!!』
ヘイムダルが間合いを詰め、決着を付けんと神剣ホヴズを振るった。
その瞬間、ジークフリートは、迫り来る神剣、ホヴズの刃を前に、自分の意識が加速するのを感じた。かつて、実の父であったジグムントとの戦いにおいても同じことが起こっていた。
ジークフリートがその意識に映していたのは、前世の自分自身の姿であった。誰も愛することなく、また愛されることもなくただ生きて行く為に働くだけの人生、それは、唐突に車に撥ねられて終ってしまった第一の人生。
この世界に生まれ変わり、父と母そして、城下の人々に愛される第二の人生。
しかし、それは炎によって塗り潰される。目の前で、自分と母を逃がす為に、城に残る父の後ろ姿と、敵の刃に倒れ、養父レギンに自分を託す母の姿。
ブリュンヒルデや、シュベルトライテ、ジークルーネにゲルヒルデ、そしてリンドブルムやヴィー、ディートリヒとハイメ、ガルガンチュア王とブロック王、教皇エイルとエルルーン、この旅で出会った全ての人達の姿が、ジークフリートの意識に浮かんだ時、彼はただ一つの事を願った。
(・・・・・・・・・・まだ・・・生きていたい!!!この世界で!!!)
神剣ホヴズが、明確な死を引き連れ、目の前に迫る中、ジークフリートの思考は現実に返った。
そして、ヘイムダルの剣が振り抜かれた。しかし、神剣ホヴズが斬ったのは、ジークフリートの存在していた空間だけであった。まるで空間に溶け込むように、ジークフリートが消えてしまったように、ヘイムダルには見えていた。
『なんと!?吾輩の必殺の一太刀を躱すとは!!一体どこへ!?』
ヘイムダルは、振り向いた。その先にジークフリートは立っていた。全身を金色に輝かせ、その瞳から赤い光を放ちながら、立っていた。
そう、死の一歩手前で、ジークフリートは新たな境地に目覚めたのだった。
《真・明鏡止水の境地!!開眼!!》
ジークフリートの思考に、その言葉が鳴り響いた。
はい!お約束!お約束!
という訳で、以下次回!!