力の差
気炎をあげるジークフリートに対し、ヘイムダルはその手中に一振りの剣を召喚し、クルリと一回転させると、ゆっくりと正眼に構えた。後は戦いの始まりを待つだけの二人の戦士は、そのまま互いに相手を見据えて動きを止めた。
ヘイムダルの構えた剣が、白銀の輝きを放つ。触れた物を全て切り裂いてしまうような鋭い光だ。
「あの剣、相当な業物だな。見ているだけで、斬られてしまいそうな剣気を感じるぞ」
リンドブルムが、その鋭い切っ先に、内包された力を感じ取り、そうこぼした。
「あの剣こそ、ヘイムダルの持つ神剣ホヴズだ!あらゆるものを切り裂く神の剣、果たして炎の魔剣で受け止めることが出来るのか、それすら我等には解らぬ」
「そんな・・・」
リンドブルムの不安を他所に、ジークフリートとヘイムダルの二人の間に進み出たのは、今回の試練の当事者であるヘルムヴァーテであった。
『では~、僭越ながら~、私が死合開始の合図を務めさせて頂きます~』
ヘルムヴァーテの手が、スッと上へ伸ばされる。ジークフリートとヘイムダルの両者の間に緊張が走る。死合とは即ち、どちらか一方が死ぬまで戦いぬく事を指すからである。
『それでは!死合開始!!』
ヘルムヴァーテは、勢いよくその手を振り下ろし、戦いの始まりを宣言した。気合いの入った澄んだ声を聞きながら、全身を炎に包んだジークフリートが、ヘイムダルに肉薄する。一気に炎竜化を最大出力に引き上げた。炎刃と化した炎の魔剣が、ヘイムダルの神剣、ホヴズに激突する。それと同時に、ジークフリートの纏っていた炎が、ヘイムダルへと殺到する。
しかし、岩をも溶かす炎竜の炎の中で、ヘイムダルは意にも介さず平然と立っていた。
『吾輩の金色の鎧、フィヨルニルは、見ての通りオリハルコンで出来ておる。この程度の炎など、涼風も同然!!』
ヘイムダルが、ジークフリートを軽々と押し返す。ジークフリートは負けじと、再び斬りかかるが、それはあまりにも無謀であった。ジークフリートの攻撃に、ヘイムダルは半歩下がっただけで、その斬撃を躱してしまった。後に残ったのは、体勢の崩れてしまったジークフリートの隙だらけの姿である。
『ムウン!!』
ヘイムダルの振るった剣は、容易くジークフリートの黒獅子の鎧を紙のように切り裂き、血飛沫を上げた。
「ああっ!?」
動揺し、声を上げたのはリンドブルムである。彼女にとって、ジークフリートは今まで、越えられぬ壁であった。その彼をしてこうも簡単に手傷を負わされるなど、想像だにしていなかっ為である。もっとも、彼女の純情可憐な乙女心が、ジークフリートの危機に、敏感に反応したせいでもあったのだが・・・。
「大丈夫!まだ終っていないっスよ!」
ゲルヒルデの言葉に、リンドブルムが目を凝らすと、浅くない傷を負わされているものの、未だ立ってヘイムダルに応戦しているジークフリートの姿があった。
出血は相当のものであるが、ジークフリートが倒れない理由、それは彼の纏っている魔道装甲、黒獅子の鎧の追加技能、全方位治癒の効果による所が大きい。
しかし、すでに魔人化し、炎竜化の同時使用で、ジークフリートには疲労の色が濃い。戦いは、ヘイムダルが優勢であった。
「何故・・・こうもこちらの剣の上をいかれる!?これが、神の力とでも言うつもりか!」
ジークフリートのあせりが言葉となって口から零れる。だが、それは真実であることをヘイムダルから聞かされることとなる。
『その通りである!!これが人の持つ領域の外にある力、神通力、真・自他合一の境地である!!お主も自他合一の境地を極めし戦士であるようだが。それゆえに、吾輩に一太刀も浴びせることが出来ぬのだ!!』
ヘイムダルの神剣ホヴズが、再びジークフリートの身体にヒットし、鮮血が白亜の通路に降り注いだ。
ジークフリートが、ジワジワと追い詰められていきます。
ここから、巻き返すことは出来るのでしょうか?
ちなみに、ヘイムダルの持つ神剣ホヴズの名前の意味は、人間の頭を指します。どう言う由来なのでしょうかね。
以下次回!!