虹の橋の番人
ヘルムヴァーテの開いた虹の橋は、彼女を包み込むと、その存在を空へと連れ去って行った。だが、ヘルムヴァーテの消えた後も、虹の橋は、そこに在り続けている。その前に、ブリュンヒルデが立ち、ジークフリートに真剣な眼差しを向けた。
「主殿、ここから先へ進めば、そこには試練が待っている。しかも、その相手とは、おそらくヘイムダルだろう」
ジークフリートは、その名に聞き覚えがあった。
「虹の橋の番人、天界の守護者か・・・」
「その通りだ。彼の強さは正に神そのものだ。覚悟は良いのか?」
ブリュンヒルデが、ジークフリートの決意がいかほどのものか問いただす。つまり、それほどの相手ということだ。
「俺の覚悟は、この旅に出た時に、すでに決まっているさ・・・だが、お前はいいのかリンドブルム?この先は何が起こるか解らない。それでも付いて来るのか?」
リンドブルムが意外そうな顔で聞き返して来た。
「お前は、行くと言うのだろう?ならば、その婚約者たる私も行かねばなるまい!これでも、紅の戦姫と呼ばれた戦士だぞ!」
リンドブルムがそう答えると、ゲルヒルデが後ろからその両肩に手を置き、ひょこっと顔をのぞかせ笑顔でこう告げた。
「リンちゃんが嫌々付いて来たと思っていたんスね!あれは振りっスよ主さん!」
「ゲーテ様!!」
「様もいらないっスよ。リンちゃん」
「はあ・・・」
なにやら疲れた声を出しているが、リンドブルムの方も、問題はなさそうだ。ジークフリートは、ブリュンヒルデの横を通り過ぎ、一言だけ皆に告げた。
「行くぞ!今の俺に、立ち止まることは許されない!!」
その言葉が終ると共に、ジークフリートは虹の橋の中へ、その身を投じた。
七色の光に、目が眩んだのも一瞬である。ジークフリートは、石造りの通路の上にいた。その通路は、空中に浮かんでおり、周辺は虹色の雲海に囲まれていた。その通路の先には、ヘルムヴァーテが待っており、その背後には、先程よりも巨大な虹の橋が天空を貫いており、その麓には、巨大な石像を門の前に建てた神殿が存在していた。そして、その前に立つ、一人の戦士の姿があった。金色の鎧を纏ったその戦士は、ただ腕を組みじっと立っている。おそらく、あれがヘイムダルだろう。ブリュンヒルデとリンドブルム、ゲルヒルデとヴィーが追いついて来たのを確認すると、ジークフリートは、空中に浮かぶ通路を進みだした。
「ここが、天界なのか?」
ジークフリートは、自分の前を歩くヘルムヴァーテに尋ねたが、それに答えたのはブリュンヒルデであった。
「ここは、天界の入り口、ヘイムダルの居城であるヒミョンブルグだ。我等の故郷であるグラズヘイムは、あそこに見える虹の橋を渡った先に存在する。そこに行けるかどうかは、主殿次第だろうな」
ブリュンヒルデの話を聞きながら進んでいると、ヘイムダルの姿がはっきりと見えるようになってきた。
だが、そこに待っていたのは、ジークフリートが想像していたものとは少し異なる存在であった。
金色の、おそらくオリハルコンで造られた鎧を纏っていたのは、青銅の色の肌を持つ自動人形であった。その眼窩に眼球は存在せず、緑色の光が灯っており、鎧の隙間から見えるのは、機械で造られた腕であり、むき出しになった腹部は、蛇腹状の装甲の隙間から歯車の様な装置がちらちらと見えている。それが、虹の橋の守護者ヘイムダルであった。
その、機械仕掛けの神は、ジークフリート達の姿を認めると、顔を上げ鋼で出来た唇から言葉を発した。
『よくぞ来られたな、オーディン神の姫君達。そして、彼女等に認めらし勇者よ。吾輩の名はヘイムダルという。戦乙女の試練のことは知っている。戦う覚悟があるなら名乗るがよい』
機械とは思えない流暢な言葉使いであるというのが、ヘイムダルの最初の印象であった。ジークフリートは進み出ると、ヘイムダルに対し、騎士の礼をとり名乗りを上げた。
「我が名は、ジークフリート!この試練に打ち勝ち、必ず未来を掴み取って見せましょう!!」
ジークフリートは、天へと手を振り上げ、炎の魔剣をその手に召喚する。
『我が元に来たれ!炎の魔剣よ!!』
『応!!』
ヴィーは魔剣に姿を変えると、凄まじい炎を噴き上げた。
はい!ようやくヘイムダルが出ました。
ここから、いかなる闘いが繰り広げられるのか!?
立ち塞がる試練に、ジークフリートは勝利することが出来るのか!?
以下次回!!