空へと続く道
結局の所、ジークフリートは、ブロック王の用意したという宴会を辞退した。大浴場の一件で疲れた訳ではなかったが、試練を前に、酒精にまみれることをジークフリートが嫌った為である。そのことを聞いたブロック王は、ジークフリートの戦士としての姿勢に、痛く感心して、宴会は試練から無事戻った時、改めて行うことを約束させられたのであった。
一夜明け、遂にその日がやって来た。既に準備を整えたジークフリートの前に、再び全身鎧を纏ったヘルムヴァーテが現れた。
『それでは~試練の場所へ向かいます~準備はいいですか~?』
その問いかけに、ジークフリートが答えるより早く、ジークルーネが進み出てこう言った。
「ご主人様、私はここに残りエルドフリームニルの修繕に取り掛かろうと思います。御許可願えますか?」
すると、シュベルトライテが進み出てそれに続いた。
「それでは、私も残りましょう。先日の魔神族が、再びやって来ないとも限りませんからね」
ジークルーネはともかく、シュベルトライテが残ると言い出したのは、ジークフリートにとって意外であった。その理由については、ブリュンヒルデが教えてくれた。
「ジークルーネの攻撃魔法は、強力すぎてこの大空洞ごと吹き飛ばしてしまうかもしれんからな!唯一、使用可能な凍結魔法は、相手に耐性があるし、だからといって、爆裂魔法や、炎熱魔法では、ニダヴェリール自体がこの世から消えかねん。それゆえ、シュベルトライテが残るのが得策ということなのだよ」
ジークフリートは、ジークルーネの魔法の威力について、その破壊力の規模がどの程度かまでは知らされていなかったが、それほどまでとは、流石に想像していなかった。
「まあ、伊達に我ら古代竜の大軍と渡り合ってはおらんということじゃよ、ご主人」
ヴィーのその言葉には、妙な実感がこもっていた。
「了解した。じゃあ、後付いて来るのは誰だ?」
「勿論、あたしとリンちゃんは付いて行くっス!」
「ええっ!?」
ゲルヒルデが、リンドブルムの肩に手を回して答えると、リンドブルムは最初は慌てていたが、ブロック王に、神鎧甲のことは任せろと、説得されると、不承不承ではあるが、付いて行くこととなった。
『これから向かうのは~このニダヴェリールの地上に存在する~神々の峰~フニットビョルグの頂上です~』
そう言うと、ヘルムヴァーテはジークフリート達を引き連れ、王宮の奥の間に向かった。そこで、一行を待っていたのは、転移の魔法陣であった。ブロック王によると、この魔法陣は、グランネイドル建国の当時からあるものだが、何をしても、一向に何の反応も示さなかった為、捨て置かれたものであった。
しかし、ヘルムヴァーテが盾砕きを翳すと、魔法陣は即座に反応した。光が溢れ出し、正常に作動したことを示す魔力の奔流が辺りに満ちた。
『覚悟はいいですね~それでは出発します~』
ヘルムヴァーテのその言葉と共に、魔法陣の中に入っていたジークフリート達の姿が掻き消えた。
「生きて戻ってこいよ・・・ジークフリート」
見送ったブロック王が呟いた。そして、残った二人の女神は、そろって天井に目を向けた。まるで、その向こうに存在するジークフリートを見守るように・・・。
ジークフリート達は、山の頂上に造られた神殿に跳ばされていた。神殿の外には、絶景が広がっていたが、ジークフリートと、リンドブルムは息苦しさを覚えていた。フニットビョルグの標高は八千メートル級である。ブリュンヒルデ達に魔導装甲を装着しておけと言われた意味がよく理解出来た。もしも、魔導装甲無しでここに来ていれば、それだけで、気絶していたであろう。悪くすれば、そのまま死んでいても不思議ではなかったのだ。改めて、試練の先に待つ者が、一筋縄ではいかないことをジークフリートは感じていた。
ヘルムヴァーテは、神殿の中央に進むと、再び盾砕きを掲げ、天へ向かい叫んだ。
『開け!!天上への道よ!!』
いつもの間延びした声ではない。魂のこもった声が響くと、神殿の天井が消え、円形の穴となると、そこへ、空から七色の光が降り注いだ。
遂に、天界への道が、ジークフリートの前に現れます。その前に立ちはだかるは、虹の橋の守護者、ヘイムダル!果たしてそれは如何なる存在か!?
以下次回!!
ところで、話とは全く関係ないですが、風邪をひきました。皆さんも季節の変わり目には、気を付けて下さいね!いつも読んでくれる皆さんに感謝!!