決着
この異世界において、強さのステータスと言えば、それはいかに多くの秘技と言われる体技を会得出来るかにあった。シグルドも幼少の頃は躍起になって会得しようと、養父であったレギンにせがんで、剣を学んだものだった。
しかし、その想いとは裏腹に、レギンがシグルドに叩き込んだのは極意と呼ばれる一種の境地であった。実際に身体を動かして会得する秘技とは違い、極意は瞑想や型といった地道に成果をあげる修行を積まねばならなかったのだ。
シグルドは、何度も逃げ出そうとしたものであったが、その効果が如何程のものかを知るのは、初陣の時であった。
シグルドが会得していた極意は三つ、一つは剣我一体の境地、己が剣を自らの肉体のように操る極意、一つは自他合一の境地、他者の呼吸を読み取り敵の攻撃にカウンターを的確に当てる極意、一つは明鏡止水の境地、心を澄み渡らせ的確に判断する極意であった。
実戦において、ただ闇雲に秘技を使う者と、極意を駆使して、的確に戦う者との戦力差は、天と地程の実力差が存在した。
シグルドは、こうして押しも押されぬ英雄へと上り詰めたのだった。
戦場から、帰還したシグルドは、レギンに対し、ただ頭を下げ、その感謝の気持ちを示したのだった。
「破アアアアアアアア!!!」
シグルドは、その極意の一つ、自他合一の境地を使い、全力で剣をジグムント王の魔剣ノートゥングに叩きつけた。
しかし、バキンと鋭い音と共に、真っ二つに折られたのはシグルドの剣の方であった。
魔剣のもたらすダメージが、僅かにシグルドの剣の限界を超えたのだ。
そして、シグルドもまた袈裟がけに斬られ吹き飛んだ。
だが、その瞬間、魔剣ノートゥングの刀身に大きな亀裂が入った。ジグムント王は、シグルドの作戦を理解するに至った。
シグルドは、闇雲に攻めると見せかけ、その実、攻撃を一点に集中していたのだ。
しかし、その攻撃に魔剣ノートゥングが勝ったのである。
『これまでか!』
ジグムント王は、止めの一撃を放つため石畳を蹴った。
シグルドは、吹き飛ばされた瞬間、自分の思考が加速するのを感じた。
死の一歩手前で感じる世界の中で、今一歩届かなかった自分の不甲斐無さを呪った。
勝負は時の運とはいえ、全てを出し尽くした決闘で負けたことが悔しかった。
(結局、以前の人生と何も変わらない。これが俺の天命か・・・)
だが、その時、シグルドの脳裏に炎に焼き尽されるヴァルムンクの光景が浮かび上がった。そして、自分の手を引く母の姿、焼け落ちる王城に残った騎士達と父の姿、その記憶が突如蘇り、シグルドの意識を取り戻す。
(いや!!まだ終っちゃいけない!!終らせてはいけないんだ!!!)
シグルドは、両の足を地面に着けた。慣性で身体は後方へ滑って行く。
「ガアア!!!」
その両手が、身体を支えようと空を彷徨った。
と、右の掌に何かが掴まれた。それは、宝剣グラムであった。
シグルドが、顔を上げた時、ジグムント王は、大上段に剣を振り下ろすところであった。
次の一瞬、シグルドは何も考えず、右腕を振り上げた。その刹那、シグルドの髪は白く染まり、瞳は深紅に輝いた。
グラムの刀身に刻まれたルーン文字が光を放つと、宝剣は、何の抵抗も示さず自然石から抜けた。
振り上げたグラムは、狙い誤らず先に刻まれた亀裂に吸い込まれた。
そして、魔剣ノートゥングを両断し、その刃は、軌道上に在ったジグムント王の首を切り落とした。
ジグムント王の頭骨は、宙を跳び、石畳の上に落ちて乾いた音を発てた。
勝負はつきました。カラスです。頑張って二話投稿してみた。
グラム抜けたね!