毒の災い
タングニョーストは、一路、ニダヴェリールの王都、グランネイドルへと進んでいた。大洞穴の中は、ドゥベルグ達によって整備されており、無数の大柱が整然と並ぶ壮大な景色であった。ブロック王が言うには石に発光石が含まれているらしく、地下であるにも関わらずとても明るいのだ。タングニョーストの走行にはなんの支障も無かったのは幸いであった。
そして現在、タングニョーストの操縦室には、ジークフリートとジークルーネの他に、操縦を任された薔薇十字騎士団の女騎士メリーダとエルルーン、ヴィーグリーズの王女リンドブルム、それに加えて先程から、少年のようにはしゃいでいるニダヴェリールの王ブロックが、それぞれ、席に着いていた。
「いやぁ!素晴らしい!メリーダ殿は今後、薔薇十字騎士団を辞めるようなことがあっても、技術者として充分、働けますぞ!」
「ブロック王様!勝手に、うちの団員を勧誘しないでください!彼女は、上位騎士の一人です!抜けられては困ります!」
「そうですよ、ブロック伯父様。それに、彼女には私が先に、タングニョーストの操縦者として、目を付けているんですから!」
「リンドブルム様!?」
今、話題になっているのは、操縦席に座るメリーダ女史の今後についてであった。ヴィーグリーズで起きた夜の女神ヘルとの戦いにおいて、重症を負った彼女であったが、他の団員達や、エルルーンと同様に、日常生活には不自由しない程度には回復していた。そこで、ジークルーネが直々に指導した結果、もはやタングニョーストの操縦については、他の者に追従を許さない程の腕となっていたのである。当の本人は、その話に、苦笑いしているだけなのだが、リンドブルムと、ブロック王がしつこく勧誘するので、見かねたエルルーンが、その話を断っているという状態であった。
しかし、その話も、ジークルーネの一言で、どこかへ行ってしまう。
「ブロック、被害のあった地底湖には、立ち寄らなくてよいのですか?一応見ておいた方がよいと思うのですが・・・」
その質問に、ブロック王が、即座に返答する。
「御心配には及びません。その地底湖は、グランネイドルの周囲を囲むように存在します。このまま、グランネイドルへ進んで行けば、自ずと見えて来ることになるでしょう」
打てば響くように、ジークルーネに答えるブロック王。どうやら、トリルハイムで見せたジークルーネの知識を垣間見て、彼女が本物の女神であると確信した彼は、彼女や、ブリュンヒルデ達と接する時は、目上の者として接することにしたらしい。ちなみに、ジークフリートに対してだけは、いままで通りであった。
そして、ブロック王の言葉通り、グランネイドルのある大空洞へ達した時、すっかり姿を変えられてしまった地底湖が、姿を現した。
澄み渡っていたであろう水面は紫色に濁り、その水際、大地との境目からは、ブクブクと泡が立ち、そこから蒸気の様なものが立ち昇っていた。
「メリーダ!止まって下さい!あなたは、ここでそのまま待機!!」
ジークルーネの言葉に従い、タングニョーストを停車させるメリーダ。ジークルーネは、急いだ様子で、操縦室を出て行った。後に続くジークフリート達、途中でブリュンヒルデ達も合流し、一行は、タングニョーストの外へ出た。
外へ出た瞬間、一行が感じたのは、鼻をつく異臭であった。その中、ジークルーネは、湖畔へと近づき、その様子に、眉間に皺を寄せた。
「どうした?ルーネ?」
ジークフリートが声をかけ、ブロック王が、湖畔へと駆け寄ろうとした時、ジークルーネは、緊張した様子で、二人を静止した。
「近寄ってはなりません!!この毒は、混沌の水と呼ばれるものです!触れれば皮膚は焼け爛れ、肉が腐り落ちます!!それと、この紫色の蒸気は、瘴気です!吸い続ければ、身体が段々と麻痺してしまいます!タングニョーストに戻りましょう!」
ジークルーネが、ジークフリート達にそう警告した時である。地底湖の湖面が、大きく盛り上がり、そこから巨大な影が波飛沫をあげて現れた。
新たな敵の出現です。ヘルムヴァーテも復活の時が近づきます。
ジークフリートに降りかかる火の粉の正体とは!?
以下次回!!




