予想外の再会
ジークルーネは、名乗りもそこそこにブロック王をタングニョーストの中へと案内した。ブロック王はまず最初に、このタングニョーストの内部に使用されている空間制御技術と、それを可能としたジークルーネの魔法を賞讃した。
それはまるで、近所で遊んでいる普通の子供が、突如、自分の憧れのサッカー選手にでも会ったようなはしゃぎぶりで、見ているこちらが恥ずかしくなるほどであった。だが、ジークルーネは、矢継ぎ早に繰り出されるブロック王の質問に、事細かに応えていた。むしろ、そこはかとなく喜んでいるように、ジークフリートには感じられた。
ブロック王が、最も興奮したのは、操縦室に入った時の事であった。彼は、入室するなり、瞳を輝かせてズラリと並んだボタンと、操縦桿を見た後、ジークルーネに尋ねた。
「これだけの種類の機能をどうやって制御しているのだね?」
「魔導核に、疑似人格を与えて制御させているのですよ。タングニョースト、こちらは、このニダヴェリールの王、ブロック殿です。挨拶をなさい」
ジークルーネに命じられた、タングニョーストの山羊の頭の像が答える。
『ハジメマシテ、ブロック様。私ハ、タングニョースト、ト申シマス。ドウゾ、ヨロシクオ願イシマス』
この声を聞いたブロック王は、またしても大声で、ジークルーネを賞讃した。
「素晴らしい!その齢で、これ程の魔導科学を実現し、しかも、それをしっかり制御している。これ程の腕の魔導士がこの世にいたことを知らなかったとは、このブロック、一生の不覚じゃわい」
興奮気味に語るブロック王に、リンドブルムが申し訳なさそうに口を挟んだ。
「実は、伯父様に会って頂きたい人物がいるのです。ついて来ていただけますか?」
そう言う、リンドブルムに連れられ、ブロック王がやって来たのは、タングニョーストの厨房であった。そこで、ブロック王を含めたジークフリート達を迎えたのは、未だ上半身、裸エプロンであるゲルヒルデであった。
「おんや?リンちゃん、ご飯の時間はまだっすよ?」
寸胴に入れられたスープを混ぜながら振り返ったゲルヒルデは、そこに大勢の人物が立っていることに驚いたようであった。
「な、なんで皆ここにいるんスか?さては、あたしの作戦に気付いたとか・・・」
こそこそと呟いているゲルヒルデを他所に、リンドブルムが彼女を示しながら、ブロック王に紹介した。
「伯父様、こちらにおわしますは、我がヴィーグリーズの封石の女神であったゲルヒルデ様です!」
「はぁ?」
ブロック王は、一瞬、リンドブルムが何を言ったのか、理解が出来なかった。封石の女神、それはヴェーグリーズの闘技場に祀られていた存在のことだ。その高貴な存在が、今、目の前で妙な格好で料理をしていると言うのである。何かの冗談かと思っていたブロック王は、件の女性から信じられない言葉を聞くことになる。
「そこにいるのは、ブロックじゃないっスか!久しぶりッスね。五年前の大闘技祭で、ガルガンチュアと闘った時以来じゃないっスか?」
えっ?と、リンドブルムが、ブロック王に振り返る。五年前の大闘技祭においてそんな試合はなかったからだ。しかし、振り向いた先に、ブロック王の驚きに満ちた顔が待っていた。
「それは、誰も知らない筈だぞ!互いの国の王が、たかが腕試しの為に、その様なことをしたと知られれば、それは互いの国の不利益に成りかねないと、誰一人としてその試合を見られぬようにと、細心の注意を払っていたのだぞ!」
「でも、あたしの前で闘ったじゃないっスか!二人して、この闘いをあたしに捧げると言っておっぱじめたじゃないっスか!」
それは、ガルガンチュア王と自分しか知らぬ筈の事実で、例外とするなら、それは、二人が誓いを捧げた女神だけである。
「あーもー、じれったいっスね!」
そう言うと、ゲルヒルデは、神鎧甲を発動させ、戦乙女の姿に戻る。闘技場で見たままのゲルヒルデのその姿に、ブロック王は、あんぐりと口を開くばかりであった。
ブロック王、ゲルヒルデと初めて語り合うこととなりました。
そして、スヴェルトアールブを襲う次なる厄災とは?
以下次回!!