鉄鎚王
ブロック王は困惑していた。というのも、今は非常事態の真っ最中であり、国宝エルドフリームニルの再起動を一刻も早く成し遂げなければならない所を、突如トリルハイムから緊急の援軍要請があり、急いで駆け付けたのだ。しかし、蓋を開けてみれば、それは、義兄弟のガルガンチュア王の娘の持つ、巨大な戦車が岩山を突き進んで来ていた音だったというのだ。
岩山から、巨大な鉄の箱が現れた時は、新たな敵の策略かと、気が気ではなかったのだ。ブロック王の言葉が険しくなるのも無理は無いというものである。
「あのなぁリンドの嬢ちゃん。来る時は、来ると先に言っておいて欲しかったもんだぜ・・・そうでなくても、今は問題が山積しているってのに・・・」
リンドブルムは、おやっ?と思った。当然友好国の礼儀として、先触れを送っていたからだ。リンドブルムはその旨をブロック王に伝えた。
「申し訳ありません伯父様。すでに、訪国の為、使者を送っていたのですが・・・私達が先に着いてしまったのでしょうか?」
そう聞いたブロック王は、ふと、思い当たる節があった。
「こりゃあ、ちとやられたかもしれんな・・・」
その可能性とは、魔神族の存在である。すでに国境は押さえられたと考えて、間違いはないだろう。ブロック王は、その事実を正直にリンドブルムに告げた。
「実は、今、俺達の国は、魔神族の奴等と喧嘩中でな・・・気の毒だが、その使者とやらは、もうこの世にいないかもしれんぞ」
「なんと!」
その話の最中、タングニョーストからジークフリート達が下車してきた。どうやら、リンドブルムが、話をつけたらしいが、心配になり様子を身にやって来たのである。
「リンドブルム大丈夫なのか?・・・こちらは?」
ジークフリートが、そうリンドブルムに尋ねた時、ブロック王がジークフリートの前にズイッと割り込んだ。
「オイ兄ちゃん!人に名を尋ねる時は、まず自分から名乗るのが礼儀ってもんだぜ!」
そう言われて、ジークフリートは目の前の人物に注目した。ドゥベルグらしくジークフリートより背が低いものの、その差は頭一つ分という所である。ドゥベルグにしては巨漢であるといえよう。そして、丸太の様な太い腕、胸まである黒い立派な髭、その手に持った大きな戦鎚、身に纏った青銅色の魔導甲冑、頭に載せられた無骨ではあるが、宝石の嵌めこまれた王冠、その全てが、この人物こそ、ドゥベルグの王だと語っていた。
「これは、失礼した。私の名はジークフリート、ヴァルムンクの第一王位継承者にして、そこにいるリンドブルムの婚約者でもあります」
そう聞いて、ブロック王は目を丸くしてリンドブルムに振り返った。リンドブルムは、その視線の意味を理解し、顔を赤くして、モジモジと身じろぎしていた。ブロック王は、ほう!と感心した。どうやら、この青年の言っていることは事実らしい。あのじゃじゃ馬だったリンドブルムが、まるで、借りて来た猫のようになっていたからだ。
(あのリンドの嬢ちゃんがねぇ・・・ガルガンチュアの奴もよく許したものだぜ・・・)
婚約者として認められた以上、それはガルガンチュア王の二人の仲を承知という訳だ。ブロック王は、居住いを正してジークフリートに名乗りを上げた。
「俺が、このニダヴェリールの王、鉄鎚王ブロックだ。こんな時じゃなきゃ、国を挙げて歓迎してやるんだけどよ。・・・ところで、リンドの嬢ちゃん、この馬鹿デカイ鉄の乗り物は一体何なのか説明してくれよ」
ジークフリートの正体が分かって、ブロック王の興味は、先程から気になったいた巨大な鉄の戦車に移った。配下であるドゥベルグの兵達も興味津々で、近くで見たり触ったりして確かめていた。やはり、ドゥベルグの根幹は職人であるらしい。この魔導重装甲車が気になってしょうがないのであろう。
「それについては、私が説明しましょう」
そう言って進み出たのは、ジークルーネであった。
職人気質のドゥベルグ達、そしてその王ブロック!
はたして、スヴェルトアールブでジークフリートが遭遇する試練とは?
以下次回!!