ドゥベルグの国
ドゥベルグ達の王国、ニダヴェリールへの入り口、大洞穴は無数のドゥベルグ達の集う場所である。その為、日中は恐ろしく騒がしい。付いた地名はトリルハイム、騒がしい家というそのままの名前である。
しかし、その日の朝は、いつもに増して騒々しかった。番兵達が走り回り、行商人や、職人達はその騒動に巻き込まれないよう、右へ左への大忙しである。
それというのも、昨日の夜から今日の朝にかけて、断続的な震動と共に、大きな音を発する何者かが、トリルハイムに近づいて来ていたからである。
「一体何事だ!この鳴動は!!」
「この世の終りか!!それとも、新しい厄災の襲来だとでもいうのか!?」
ドゥベルグ達が落ち着かないのには理由があった。ここ数カ月に渡り、ニダヴェリールは、突如二つの災いが襲っていたからである。
一つは魔神族の襲撃である。
ドゥベルグの王ブロックは、魔神族からの同盟への誘いを断り、ヴィーグリーズの王ガルガンチュアとの友誼を守り、友の王国を襲った魔神族に対し、徹底抗戦の意志を明らかにしたからである。その為、魔神族の将、ニーズホッグは、自身の兵団を引き連れ、ニダヴェリールに攻め寄せて来ているのであっった。
二つ目の災いとは、ニダヴェリールの首都であるグランネイドルに存在するという魔法の錬成窯、エルドフリームニルが突如、その機能を停止してしまったことであった。エルドフリームニルは、あらゆる魔宝具や、神宝具さえ修理するという、ニダヴェリールの国宝である。
ある日のこと、その火が突如として落ちてしまい、現在、国中の職人や、錬金術師を集め、その復旧に当たっているのが現状であった。
ドゥベルグ達は、不安に駆られ、外から来る者に対し、非常に敏感になっていた。そんな折、今回の騒動が起こったのである。ドゥベルグ達は気が気ではない。しかし、その不安を消し飛ばすような一声が轟いた。
「皆、落ち着けぇい!!」
その声に、その場に存在する全てのドゥベルグ達が、奮い立った。
そう、誰を隠そうその人こそ、ドゥベルグの王ブロックその人であったからだ。屈強な戦士団を率い、異変のあったトリルハイムに駆け付けて来たのである。
「これより、この場はワシが仕切る!手の空いている者は、一刻も早く、非戦闘員を大洞穴へ避難させよ!!」
鶴の一声とはよく言ったもので、今の今まで慌てふためいていたドゥベルグ達の動きが、一斉に統制の執れたものに変った。
ブロック王は、トリルハイムの玄関口である大門へと向かい、そこから外界に通じる窓から、外の様子を伺った。
ちょうどその時である。大洞穴の正面に存在する岩山の岸壁から、巨大なドリルが突き出て来た。
そう、それはタングニョーストの尖角であった。二日前、岩壁にぶち当たったジークフリート一行は、一直線にトリルハイムへ辿り着いてしまったのであった。
「ふう!いい仕事をしました。メリーダ、貴女もよくやりましたよ。」
「ありがとうございます!ジークルーネ様!お役に立てて嬉しいです!!」
ジークルーネが操縦席に座っていた女騎士に、労いの言葉をかけるが、ジークフリートはそれどころではなかった。タングニョーストの前方には、ドゥベルグの軍勢が攻撃陣形をとりつつあったからだ。ジークフリートはずっと、操縦室にいた訳ではない。ようやく、地上に出られると聞き、やって来た所であったのだ。なのに、いきなりこれである。このままでは、ドゥベルグ達との関係に、悪影響が出かねないと、心配した時である。
「大丈夫です、ご主人様。こんなこともあろうかと!!このタングニョーストの装甲は、ゼーリムニルと同じ素材、即ち、形状記憶合金ベルタイトで造っています!神宝具でも持ってこない限り、傷一つ付きません!」
「いや!それはもういいから!・・・じゃなくて、そんなことを心配しているんじゃない!!」
ジークフリートが、ジークルーネの的外れな回答に突っ込みを入れた時、タングニョーストの下部にある入口が開き、そこからリンドブルムが外へ出ると、ドゥベルグの軍勢の最前列にいた王冠を被った戦士に駆け寄り、嬉しそうに抱きついてこういった。
「お久しぶりです!ブロック伯父様!!」
ブロックとガルガンチュアは、兄弟ではありません。
では何故リンドブルムは、ブロックのことを伯父様などと呼んだのでしょう?
以下次回!!