タングニョースト
タングニョーストは、まさに万能戦車というべき存在であった。どんな悪路でも走破し、その走りは留まる事がない。ジークフリートはふとした興味から、その操縦室に向かうことにした。
長い階段を昇りその先にあった鉄製の扉を開けると、その操縦室に造られた座席の一つに、ジークルーネが座っていた。
「これはご主人様。ようこそタングニョーストの操縦室へ。こちらの席にお座りください」
ジークフリートは、ジークルーネに進められた座席に座った。操縦席ではなくその後ろの座席である。操縦席は、薔薇十字騎士団に所属する女騎士の一人が座っており、操縦桿を握って、この巨大な戦車を動かしていた。ジークルーネは副操縦席に座り、なにやら操縦している女性に、あれこれ指示しているようだった。
「凄いな・・・もう操縦を覚えたのか・・・」
ジークフリートには、どのボタンが、どのような機能を持っているのか、まるで解らなかった。なにせ、ボタンやメーターがズラリと並び、まるで昔、テレビで見た飛行機のコックピットのようであったのだ。
「彼女はなかなか筋がよろしいので、この私が直々に教育してあげたのです」
随分上からの発言であるが、むしろ、その言葉に女騎士は恐縮していた。
「わ、私なんてまだまだですよ!未だにタングニョーストの手助けがなければ、細かい操縦は無理ですからね」
その言葉に、ジークフリートは疑問を覚えた。
「この戦車にか?」
その質問に答えたのは、ジークルーネであった。
「それについては、今からご説明しようと思っていた所です。タングニョースト!ご主人様に挨拶を・・・」
『承知イタシマシタ・・・ハジメマシテ、ジークフリート様。私ハ、コノ重装甲車ノ制御脳デアル、タングニョーストデス』
機械の合成音の様な声が、操縦室の中に響いた。よく見ると、操縦席と副操縦席の間に、銅で出来た山羊の首から上の彫像の目が、その声に合わせてピカピカと明滅していた。
「ご主人様は、大闘技祭で闘ったゼーリムニルを覚えていますでしょうか?あれの制御脳と同じ、魔導核を用いて、このタングニョーストを造ったのですよ」
ジークフリートの脳裏に、ヴィーグリーズで闘った、機械仕掛けの金色の猪の姿が浮かんだ。
「あれか・・・」
「そうです。あれです。実は、あれは私が造った物でして、拠点防衛の為、無人でも長期稼働するように設計したものです。武器を持った生命体に反応し、防御の為に応戦できるように、ある程度の知能も与えていました。」
それを聞いて、ジークフリートは納得した。なるほど、あれもこの目の前に座る女神の手で創りだされた存在であったのである。
(流石は、英知を司る女神といったところか、あれには、随分、手を焼かされたからな・・・)
攻撃を受けると、その攻撃に対して、適応していく兵器、それと同じ機能を、このタングニョーストも持っているのだろうか?ジークフリートは気になったので聞いてみることにした。その答えは、以下の通りである。
「自己進化機能は付けていません。人間の生命信号に反応するようには造っていますがね」
「というと?」
「タングニョーストは、その巨大さゆえ、足元が疎かになります。車輪に人が巻き込まれたりしないように、車輪に接近するだけで自動的に停止出来るようにしています」
まさか、それは所謂、自動ブレーキ機能ではなかろうか?本当にここは、文明レベルが、中世ヨーロッパ以前の世界なのだろうか?
魔法というものが、いかに科学に代わってこの世界の学問として成立しているのかを、ジークフリートは、改めて認識させられた。
「いや!それ以上だろこれ!?」
ジークフリートの混乱した声が、タングニョーストの操縦室に響いた。
ジークルーネは、ニコニコしながらその様子に満足げな表情を浮かべていた。
オートブレーキシステムですね!どんどん進化してゆく車の機能がここにも!!
最早ジークルーネさんなんでもありです!
まあ、この程度で終りませんがね・・・
以下次回!!