ニダヴェリールへの旅路
ジークフリート一行は、ガルガンチュア王が、リンドブルムに与えたタングニョーストに同乗し、一路ニダヴェリールに向かっていた。
タングニョーストという名は、雷神トールが乗る戦車を引く、二匹の山羊から取ったということであったが、ジークフリートは何故この巨大な乗り物が、その名前受け継いだのか、今一つ、ピンと来なかった。
それは、陸を行く巨大な戦車であった。勿論、古代ローマで使われていたような戦車ではない。どちらかといえば、現代の装甲車に近い形で、車輪は八つあり、その一つ一つの大きさが成人男性より巨大であった。しかも、その構造はタイヤに近い、何層もの鉄板が重ねられていて、それが空気の圧力で支えられている形である。サスペンションらしきものが付いているのを見た時は、俺は、いつから現代に還って来たのかと、ジークフリートは疑ったくらいだった。
内部には、空間魔法がかけられ、見た目よりも更に広い居住区があり、そこにジークフリート達は寝泊まりしているのである。
ちなみに、このタングニョーストの開発には、ジークルーネが一枚噛んでいるらしい。そういえば、ヴィーグリーズ滞在中、姿が見えないと思っていたら、宮廷魔術師筆頭であるブラギと、その弟子達に、自分の持つ魔法科学を伝授していたらしのだ。ジークフリート達の出発時、宮廷魔術師達が総出で、ジークルーネの見送りに出て来ていたことを思い出し、すんなり納得してしまったジークフリートであった。
なにせ、ジークルーネを見送る眼差しは、正に女神に向けるべき、尊敬と憧れに溢れていたのだから、なにかあったな、と勘繰っていたのだが、まさか、こんなものを造っていようとは誰が想像出来ただろうか。ジークフリートは呆れを通り越して、感心したものだった。
ジークルーネにしてみれば、それは全てジークフリートの為であったのだが、頑張りすぎて空回りしてしまったといったところか。
今度の旅には、エルルーン達が同道しており、戦闘には参加できないまでも、タングニョーストの操縦や、食事の用意、ブリュンヒルデやリンドブルムの世話を出来る程度には回復していた。
しかし、いついかなる時にも、働かざる者、食うべからずということわざを重視するジークフリートは、今は厨房に立ち、食事の用意をしていた。
彼の手助けを買って出たのは、ゲルヒルデであった。これが、意外に手先が器用なのである。これまで、食事に関しては孤軍奮闘していただけに、この援軍は、ジークフリートにとって天の采配にも等しい出来事であった。
ただ一つだけ、ジークフリートにも理解出来ないことがあった。
(何故、こいつは上半身、裸エプロンなんだろうか・・・?)
そう、ジークフリートと共に厨房に立つゲルヒルデの恰好は、上半身は素肌の上にエプロンだけを着け、下は一般的な服装という、一風変った恰好だったのである。
(くふふ・・・見てるっス!見てるっス!この自慢の褐色の肌に、白いエプロンのコンビネーションが、見事に主人さんの視線を釘付けにしてるっス!これを機会に、復活時のマイナスイメージを払拭してやるっスよ!)
どうも、ゲルヒルデは、未だに復活時の初契約のことがトラウマとなっているらしい。こうして、ジークフリートの自分に対する評価を良くしようと、涙ぐましい努力を続けているのだった。
「それにしても助かったよ。ゲルヒルデ。他の女神達は、食事の用意だけは任せられないからな・・・」
「あれ?ライテ姉さんは、料理出来るっスよね?」
「まあ、確かに出来ると言えば出来るが・・・」
「・・・直ってないんスね。あの癖が・・・」
「そうなんだよ・・・」
その癖とは、料理に竜斬刀を使用することである。いくら洗浄の魔法がかかっているとしても、人を切ったこともある得物で料理をするなど、ジークフリートには有り得なかった。
「ああ!私も有り得ないっスよ。そこは、主人さんと一緒っス!」
やはり、戦乙女にしても、あれは流石に非常識で通るらしい。ホッとするジークフリートに、ゲルヒルデがすり寄って来た。
「それよりも、主人さんには、あたしのことはゲーテと呼んで欲しいっス!」
「あ・・・ああ。分かったよ。ゲーテ・・・」
初めて、愛称で呼ばれたゲルヒルデは、華が咲いたような笑顔を浮かべるのであった。
「・・・ゲルヒルデ様。・・・恐ろしい女!」
その光景を陰から見ていたリンドブルムは、別の意味で戦慄を覚えていた。
ゲルヒルデさん頑張ってアピール中!
女性に免疫のないジークフリートは、面白いように釣られています。(笑)
その旅路は、非常に順調です!
以下次回!!
十一話、十二話、十三話、書き足しました。




