もう一人の転生者
黒龍太子ファーブニルが、水晶球に触れると、その全身を虚脱感が襲った。
「うぐっ!!?」
正直、一瞬で半分近くの魔力が奪われるとは思わなかったファーブニルは、意表を突かれた感じで、膝を着いた。しかし、その手が水晶球から離れることは無かった。まるで、血管のような赤い管がファーブニルの手に絡みつき、離すことを許さなかったからだ。ファーブニルは自分の半身である龍神機を蘇らせる為にここに来たのであったが、先程感じたのは、眼前に立つ最も巨大な石像が、自分の魔力の大半を奪っていった感触だった。
(貴様に用は無い!!今は我が半身が蘇ることの方が先決!なんとしても、残りの魔力で成功させて見せる!!)
しかし、失敗すれば、それは即ち、死を意味するこの試練において、魔力の大半を持って行かれたのは、痛恨の一事であった。
朦朧とする意識の中で、ファーブニルはこの世界に転生してからの人生が走馬灯のように流れ出した。そう、彼もまた、ジークフリートと同じく転生者であったのだ。
(これは・・・拙いかもしれん)
そう頭の片隅で考えながら、ファーブニルの意思は、転生してから間もない頃の事を思い出していた。
あの頃は、父である破壊神、ロキは存命してはいたものの、魔神族達は互いの覇権を争い、兄弟達とも仲が悪かった。ロキは互いが争い合っているからこそ、進歩があるのだと常日頃から言っていたが、ファーブニルはその方針に不満を覚えていた。
元の世界では、孤児であったファーブニルは、ロキが封印された後、即座にその政策を改変させた。自ら様々な部族の元に赴き、一つ一つの部族の説得に当たった。時には、力を示すことで問題を解決したこともあった。彼の副将、ファーゾルトなどは、その代表格であった。弟のフェンリルに至っては、三日三晩戦いぬき、ようやく和解に至ったほどだ。その後、人化の法を確立させ、それまで問題となっていた食料問題を解決させ、住居を地下に設営することで、領土問題を解決させた。覇権争いの元を断ち、魔神族の結束を高めたファーブニルは、魔神族の勇者として、同族に讃えられることとなった。
実際は、せっかく出来た家族と仲良くなりたいがため、頑張っていただけであるのだが、いつの間にか、彼は押しも押されぬ存在となっていた。
だが、そのことに不平や不満は一切なかった。
そして、後顧の憂いを断つ為、魔神族を敵視し、根絶しようとする光の聖教会との戦いに打って出たのである。
ロキの魂の欠片の回収というもっともらしい大義名分もあったことであるし、共存できるのであるなら、人間族とも共にやって行く自信はあった。
(だが・・・それも、ここまでか・・・)
ファーブニルの残りの魔力は、あと一割といった所であった。
もはや、自分に生き残る術は無い。兄弟達には申し訳ないことになったと、後悔しながら、その意識は闇の中に落ちて行った。
しかし、その体を受け止めた者達がいた。
「あーあー!無茶しすぎだって!兄者は!!」
それは、フェンリルの声であった。
「それより、魔力を集中させなさい!兄上の龍神機を優先させて復活させますよ!」
そして、アルフヘイムに向かった筈のヘルの声も聞こえて来た。
「承知した!早く済ませてしまおう!兄上の体力も限界ですからな!」
ヨルムンガルドの少年じみた高い叫び声も聞こえた。
そして、ファーブニルが再び目を開いた時、心配そうに自分を覗き込む、三人の兄弟の顔があった。
「お前達・・・何故ここに・・・ヘル、お前はアルフヘイムに向かった筈では・・・」
「そちらは、優秀な副官に任せておきました。私は、フェンリルからの知らせで、急遽、ヨートゥンヘイムに帰還したのです。・・・間に合ってよかった・・・」
ファーブニルは、兄弟達に支えられ、立ち上がった。そして、その前に黒い魔神機が存在していた。禍々しいねじれた角が、頭や肩の部分から生えた人型の機体、龍を思わせる翼と尻尾、その赤い瞳がファーブニルを見下ろしていた。
「久しいな・・・我が半身、龍神機、ファフナーよ」
題名でバレバレですが、ファーブニルも転生者でした。
そして、甦るファーブニル専用魔神機、龍神機、ファフナー!!
人間の時代に甦る、神々の戦い!!
真戦の幕が切って落とされました。
以下次回!!




