黒龍太子の帰還
ジークフリート一行が、次なる目的地へ出発する頃、黒龍太子ファーブニルは一人魔神族の本拠地であるウートガルズに帰還していた。
今まさに、ウートガルズの主、アングルボザの前に立ち、帰還の挨拶と共に、ヴィーグリーズで手に入れた、破壊神ロキの魂の欠片を献上するところであった。
「母上、ただ今戻りました。こちらが、ヴィーグリーズのビルスキルニル大神殿に封印されていた。我等が父、ロキの魂の欠片であります。」
ファーブニルがその手に持つ魂の欠片を掲げ持つと、玉座に座っていたアングルボザが立ち上がり、ファーブニルの傍まで来ると、その魂の欠片を自ら受け取り、労いの言葉をかけた。
『よくぞやってくれた!これで残る封印は二つ、期待しておるぞ!ファーブニル』
しかし、アングルボザの機嫌が良かったのもそこまでだった。
『時にファーブニルよ。こ度の戦、人間共に敗れたというのは真か』
ファーブニルは、アングルボザがヴィーグリーズにおける敗戦の情報をすでに耳にしていることに驚いた。
何故と疑問に思ったファーブニルであったが、その答えはすぐに判明した。
謁見の間の暗闇の中に、二人の巨人が立っていることに気付いたからだ。
(なるほど、奴等ならば頷ける。しかし、今はこちらの足を引っ張らないでほしものだ)
彼女等は、巨人族の魔女、イアールンヴィジュルと呼ばれる存在で、このウートガルズの政治の実権を握っているのである。
いうなれば、ファーブニルは彼女等にとって政敵である。この機にファーブニルの将としての権力を削ごうというのであろう。
(厄介なことだが、仕方ない。ここは正攻法で行くしかないか)
ファーブニルは、アングルボザの視線を真っ向から受け止めると、恥じることなく言い放った。
「その通りです。母上。このファーブニル、不覚にも、こ度の戦いで敗れました。」
その言葉を待っていたかのように、魔女達は口々にファーブニルを罵った。
『やはり、半人前の太子様では、荷が勝ちすぎたらしいのう』
『アングルボザ様、この際我等に、軍の実権を譲るよう、太子様に言うてくれますまいか?』
アングルボザも、その言葉がもっともだと思ったのであろう。
『どうなのじゃ?ファーブニルよ』
そう尋ねるアングルボザは、返答次第ではファーブニルから簡単に指揮権を取り上げるだろう。だが、魔女達に軍を任せればいかなる結果になるか、ファーブニルは痛いほど知っていた。ウートガルズの衰退は彼女等の責任であるのにも関わらず。その独特の社会体制から、彼女等は言わば聖人の立場にある存在であるがゆえに、罰されることもなく、未だにのうのうと政に係っているのである。
ファーブニルは、彼女等とそりが合わなかった。彼は、魔神族全体の事を考えて行動しているが、彼女等は、自分達の権力の拡大しか考えていないのだ。これでは、本末転倒である。
ファーブニルは、意を決し、その問いに答えた。
「我らが敗れたるは、魔導姫神の出現によるものです。それが四体、かのヴィーグリーズの地に降り立ち、我等の進軍を妨げたのであります」
アングルボザは、魔導姫神と聞き、髪を逆立てて逆上した。
『にっくき神々の遺産か!!先の大戦において総て消滅していたのではなかったのか!?』
「それについて、母上にお願いの儀がございます!!」
ファーブニルは、ここぞとばかりに斬り込んだ。今回の帰還は、全てがこの為に在ったのだ。
『願いだと!?』
「はい!私に禁断の間に入る許可を頂きたいのです!!」
その言葉に、アングルボザは一気に逆上から冷めた。
『禁断の間だと!?あそこに入ればどういうことになるか理解しているはずだ!』
しかし、ファーブニルも一歩も引かなかった。
「解っております!しかし、それなくして戦乙女の魔導姫神に打ち勝つことが出来ましょうや!!」
ファーブニルの決意は堅い。そのことをアングルボザは感じ取った。
『そこまで言うなら、私から言うことは何もない・・・ついて来るがよい!母自ら案内してやろうぞ!』
アングルボザは、踵をかえし、玉座の後ろに造られた通路に、ファーブニルを誘った。
ファーブニルにも、政敵が存在します。
巨人の国も、一枚岩ではありません。
そして、禁断の間で待つものとは!!
以下次回!!
七話、八話書き直しました。気になる人は見てね!