新たな旅の供
王城へと帰ったジークフリートは、ガルガンチュア王の元に赴き、明日にもヴィーグリーズを出発し、次の目的地であるニダヴェリールに向かうことを告げた。
しかし、ガルガンチュア王の発した言葉に、ジークフリートは勿論、そこにいた家臣達も驚くこととなる。その内容とは・・・。
「つまり、リンドブルムを連れて行けということで間違いないんだな。ガルガンチュア王よ」
「うむ!その通りだ!!」
打てば響くような明朗な答えに、ジークフリートは頭を抱えた。
また一つ問題を抱え込むことになるのだ。慎重にもなるというものである。
「とりあえず、訳を聞きましょうか?」
「まあ、建前はリンドブルムの破損した神鎧甲の修復が出来るのは、ニダヴェリールの王であるブロックだけだからという理由だな」
「本当の所は?」
「愛娘が本気で惚れた男と、離れ離れになるのは忍びないと思ってな。まあ、所謂一つの親心というやつだ」
やはり、とジークフリートは嘆息した。ガルガンチュア王はどうも、本気でジークフリートとリンドブルムの婚姻を真実のものとしたいらしい。
かつての友、剣王ジグムントと交わした約束が、ここに来て真実になろうとしているのだ。意気込むのも分からぬ訳ではないが、一つだけ断っておかねばならないことがあった。
「この旅は、行く先で世界を救う為の試練が待ち受けている。命の保証は出来ない。それでもいいのか?」
ジークフリートの問いに、ガルガンチュア王は急に真顔になって答えた。
「なめるなよ!俺の娘はそんなに柔ではない。それに、いざというときは婿殿がなんとかしてくれるんだろ?」
やはり、とジークフリートは思った。試練の難易度が上がっている。滞在が長引いたせいか、それとも短期で出て行ったとしても、リンドブルムは付いて来たのかは分からないが、今となっては後の祭りだ。
そもそも、ギンヌンガカプの二の前にならないよう、戦乙女達の戦力を動かすのは、ヴィーグリーズの防衛網が元の状態に戻ってからと、決めていた。
今更というものだ、とジークフリートは首を振った。
「引き受けよう。ヴァルムンクの王位継承者としてな!」
ガルガンチュア王は満足そうに頷くと、ブラギに命じた。
「タングニョーストをリンドに与える。手配を頼むぞ!」
「なんと!あれを姫様に差し上げると!承知しました!直ちにそのように取り計らいましょう!」
そう言うとブラギは、弟子達を連れ、足早に去って行った。
ジークフリートは、タングニョーストなるものが如何なるものか知らなかった為、ただ見送っただけであった。
「では、俺達は旅の準備があるから、街で買い出しに行くとするよ」
出て行こうとしたジークフリートにガルガンチュアが待ったをかけた。
振り向いたジークフリートは、驚くべきものを目にすることとなる。
なんと、ガルガンチュア王が、ジークフリートに頭を下げていたのだ。
この世界では、その行為は、最大限の礼にあたり、一国の王が、未だ地位も持たぬ平民に頭を下げるなど、古今東西聞いたためしがなかった。
「娘の事、よろしく頼む!!」
ガルガンチュア王がそう言うと、居並ぶ家臣一同も、ジークフリートに頭を下げた。
これが、ヴィーグリーズの結束、これがある限り、ヴィーグリーズは滅びることは無いと、ジークフリートは確信した。
ジークフリートは答礼を返し告げた。
「未だ未熟なれど、全力を尽くしましょう!未来の父よ!」
そう言うと、ジークフリートはサッと踵を返し、玉座の間を後にした。
ガルガンチュア王と家臣達は、その後ろ姿にかつての剣王の姿を見た。
「ひょっとしたら、俺の娘は、とんでもない男を選んだのかもしれないな・・・」
ガルガンチュア王の呟きは、誰にも届かなかった。
その後、ジークフリートがタングニョーストの正体を知って仰天するのは、すぐ後の事であった。
タングニョーストというのは、北欧神話でトールの戦車を引く山羊の名前である。
そこから、連想してみよう!はい!その通りです!!かどうかは分かりませんが、次回は再びファーブニルにスポットが当たります。
ヨートゥンヘイムの禁断の間とは、いかなる場所なのか!?
以下次回!!