勇気の女神
ヴィーグリーズに目を戻すと、ジークフリート一行には、国を挙げた歓待が待っていた。
特にガルガンチュア王は、ジークフリートを婿殿と呼び、夜会や街の重役達との会議にも出席させ、その度に第一王位継承者として挨拶させていた。
最初は戸惑っていたジークフリートも、これも帝王学の一環ですとジークルーネに背を押され、開き直って事に当たっている。
さて、女性陣達はというと、ブリュンヒルデは常にジークフリートの傍にいて、正妻は自分とアピールしていたし、リンドブルムはそんなブリュンヒルデに食ってかかるといったことを繰り返した。
中でも意外だったのが、リンドブルムとゲルヒルデの仲の良さである。
戦後に、改めて紹介した時、ゲルヒルデがリンドブルムに抱きつき、涙を流して、その成長を喜んだのだ。
その一幕を御覧に入れよう。
「という訳で、今日から俺達の仲間に加わったゲルヒルデだ。知っているだろうが、闘技場に祀られていた封石の女神でもある」
その紹介に、リンドブルムが恐る恐る問いかける。
「ということは、そこにいるブリュンヒルデは、名乗った時の内容の通り、オーディン神の長女に当たる女神であると・・・」
ブリュンヒルデが、その問いに笑顔で答えた。
「その通りと言っておこう。ちなみにそこにいるシュベルトライテはフォールクヴァングのセスルームニル大神殿に祀られていた女神だ。ジークルーネの方は、そなた達が幻の塔と呼んでいる、フヴェルゲルミル湖の時の塔に祀られていた英知の女神だな」
「そして、ゲルヒルデ様。貴方という訳ですか・・・ハハハ・・・敵うはずがなかったか・・・」
そういって落ち込んだリンドブルムに、ゲルヒルデが抱きついた。
「そんなことは無いッスよ!リンちゃんは良く頑張ったっス!」
目を白黒させるリンドブルムの後ろでガルガンチュ王が驚いた顔を見せた。
「その呼び方は・・・」
ゲルヒルデはニッコリと微笑むと、リンドブルムにこう続けた。
「ヒルデガルドとは親友だったっス。ヴェーグリーズに祀られてからも、ちょくちょく会話してたっすからね。特に、リンちゃんは赤ん坊のころからよく知ってるっスからね。成人の日に勇者の加護も与えたっス!」
ゲルヒルデが亡き母の友人と聞き、驚く一同、そういえばとブラギが思い出して尋ねた。
「昔、ヒルデガルド様が、封石の前でよく独り言を言ってらっしゃった。あれはまさか・・・」
ゲルヒルデが、ああ、と頷き答えた。
「あたしと会話してたんスよ。遠くでは無理っスけど、近くに来てくれたら念話が通じたっスからね。よく暇つぶしに、意識の中だけで戦ったりしたもんだったっス」
母の知らない一面を知り、リンドブルムは目尻に涙を湛えて聞き入っていた。
「だから、信じられなかったっス。彼女が死んだと聞かされた時は」
ガルガンチュア王が、悔しげに俯き、ゲルヒルデは涙を流した。
「聞けば神滅の槍の一撃にて、ミズガルズ王フレイにやられたそうじゃないっスか!でもそれは、彼女の実力の総てではないっス!おそらくは神滅の槍の特殊効果によるものっス!でなきゃ、この私と決着が着けられないほどの使い手が負けるはずがないっス!リンちゃん!!」
そう言うと、ゲルヒルデはリンドブルムの肩に両手を置き、その涙に濡れた両の目を真っ直ぐ見据えてこう言った。
「ここにいる間、リンちゃんに槍での戦い方を教えるっス!ヒルデガルドの斧槍術そのものを!!」
その時から、リンドブルムとゲルヒルデとの間に、奇妙な友情が始まった。
ゲルヒルデは、よくリンドブルムを連れ出し、闘技場で実戦さながらの特訓を課している。
そして、カーシャをはじめ闘技場の闘士達までもが、その訓練に参加するようになっていた。
ゲルヒルデさんの良い話でした。
後日談はあと少しかかります。
ところで、序章入れてみました。
前々から、前半部分の文章の少なさが気になってましたので、ボチボチ追加していくつもりです。
仕事の合間に書いていたので、今見るとホントに少ないですね。ビックリです。
というところで、以下次回!!