敗者達の行軍
一方、ガルガンチュア王の抹殺に失敗したとはいえ、大封印の破壊に成功し、ロキの魂の欠片を奪取した魔神族の軍は、一路、集結地点であるダインヘイムに向かっていた。
その行軍の中、人の姿に変じた黒龍太子ファーブニルは、突如現れた魔導姫神の存在の事を考えていた。
(まさか神々の遺産が、あのようにして現われるとは、思いもよらなかった。ブリュンヒルデ、鎧を纏う者か・・・生身で相見えたのは初めてであったが、その強さ、先の大戦において、巨人兵千体を壊滅させた時と、なんら変っていない。あれと互角に戦う為には、龍神機でなくては不可能だ。だが、龍神機の復活には、膨大な魔力が必要だ。そのために、父神ロキの復活は急務であったが、これは策の練り直しが必要だな。まずは皆の帰還を待つか)
そこまで考えた時、傍らにいたフェニヤが心配そうに声をかけた。
「ファーブニル様、傷が痛むのですか?やはり休憩を挟んだ方がよろしいのでは・・・」
「心配は要らぬ、フェニヤ。この程度の傷ならば、すぐに再生する。それより他の場所に向かった者達が心配だ。一刻も早く合流地点に戻らねばな」
何故か残念そうなフェニヤを他所に、ファーブニルは今後の事を考えていた。
ファーブニルは、今回の遠征に、魔神族の全ての部族に、出撃を命じていた。
今回の敗戦は、今後の作戦活動について、支障をきたすのではないかと、焦燥に駆られていた。
しかし、その不安は解消することとなる。
突如、伝令兵がファーブニルの元へやって来て告げた。
「殿下、こちらに向かって来る巨大な獣がおります。おそらく、フェンリル様ではないかと」
その報告が終わるのと同時に、ファーブニルの目にも、原野を駆けて来るフェンリルの姿が見えた。
フェンリルの総身は傷だらけであったが、致命傷と思われる負傷は見当たらなかった。
「フェンリル!!」
『兄貴か!!そっちも無事だったか!見た所俺よりも軽傷で済んでるようだな。流石だぜ!!』
「と言うことは、そちらにもやはり魔導姫神が現れたか?」
『ああ・・・槍を使う恐ろしい相手だったぜ!』
「兵達は?」
『そっちは、俺が戦ってる間に撤収させた。損耗は無いぜ!!』
その朗報を聞き、ファーブニルは次の作戦が、まだ展開可能であると、策を巡らし始めた。
それにしても、とファーブニルは自分の弟である巨大な獣を見上げた。
野生の勘、と言ってしまえばばそれまでだが、この異形の弟の第六感の鋭さに頼もしさを感じていた。
「とにかく無事で良かった。流石だな獣王!」
その言葉に、ニヤリとしたフェンリルはしかし、グラリと傾くと、徐々に小さくなり人の姿に成ると、肩を押さえて膝をついた。
「だがこの有様だぜ。流石は戦乙女といったところか」
「その肩は・・・フェニヤ!回復を頼む!」
「承知致しました!!」
フェニヤは水の属性を持つ高位の古代竜である。
フェンリルの肉体に触れると、その身体が青く輝いた。
その光がフェンリルの身体を包むと、傷が徐々に塞がっていく。
フェニヤの持つ特殊能力である。
「助かるぜ。フェニヤの嬢ちゃん」
「嬢ちゃんは止めてください!!私はもう成竜ですよ!」
ファーブニルの方を気にしながら、フェニヤはムスッとしながら答えた。
含み笑いを洩らしつつ、フェンリルはその嗅覚に、他の存在の匂いを感じた。
「兄貴!他の連中も帰って来たようだぜ」
その言葉と共に、空から龍の兵団が、陸からは獣牙族と、蛇身族の軍団が集結してきた。
「どうやら、損害は蛇身族の者達が多いようだ。フェニヤ、回復班を連れて行ってくれるか?」
「はい!すぐ参ります!!」
早速行動に移すフェニヤ、後に残されたのは、完全回復に至らず、放り出されたフェンリルだった。
「出来ればもう少し回復させてほしかったぜ・・・」
その背中には、哀愁が漂っていた。
ファーブニル達もまた、次なる一手に打って出ます。
そして、再びジークフリート達の前に現れるのでしょうか?
以下次回!!