希望
エルルーンの話を聞いていたジークフリート達は、一様に押し黙っていた。
その沈黙を破ったのは、ブリュンヒルデだった。
「おそらく、その者は、名乗った通り破壊神ロキの側の女神なのだろう。それならば、結界の力が通用しないのも頷けるな」
「本当に、申し訳ありません。私の考えが足らず、むざむざと大封印を破壊されてしまいました。しかし、その罪を償おうとも、この有様・・・自業自得とは正にこの事です」
エルルーンは、動かすことが困難になった右腕を見た。
切断には至らなかったものの、腱を断たれてしまったその腕では、以前のように剣を振るうことは無理であろう。
他の薔薇十字聖騎士団の団員も同様である。
この中で最も、エルルーンの腕を惜しんだのは、リンドブルムであった。
「父上、どうにかならないのですか?国の治癒魔術師達では、エルルーンの傷の完治は無理なのですか?」
「こればかりはどうしようもない。治癒の魔術は、高位の魔術師でさえも、完全な回復は不可能なのだ」
ガルガンチュア王の答えに、リンドブルムや、騎士団の面々も押し黙ってしまった。
「治るぞ。心配はいらん」
あっけらかんと答えたのはまたしてもブリュンヒルデだった。
ジークフリートは、後ろに控えているジークルーネを振り返った。
そう、ここには英知を司るほどの、高位の魔術師、いや、女神が居るのだ。
しかし、ジークルーネは、ジークフリートの視線の意味に、首を振って否定を示した。
「主殿、ジークルーネではないよ。それよりもオーディンの瞳が示す次なる目的地が知りたいのだ。出してくれないか、主殿」
そう言うと、ブリュンヒルデは天空の瞳を起動させた。
空中に浮かびあがる光の地図、その精巧さにガルガンチュア王やブラギは目を奪われたほどだ。
「これは・・・神宝具か・・・素晴らしい」
ブラギは、それがいかに希少なアイテムであるか即座に理解した。
ジークフリートが、魔導宝庫からオーディンの瞳を取り出すと、部屋の中を柔かな青い光が満たす。
「おお・・・!!」
ガルガンチュア王はその幻想的な光景に、思わず感嘆の声を上げる。
その光が収束し、地図の一点を示す。
「ニダヴェリールの王都、グランネイドルだな。でも、それとエルルーンの負傷と何の関係があるんだ?」
ジークフリートが不思議に思い、ブリュンヒルデに尋ねるが、エルルーンの傍に立っていたシュベルトライテが、納得した様子で呟いた。
「ヘルムヴァーテですね。それならば、エルルーンのこの傷も治すことが出来るでしょう」
その言葉に、ジークルーネが補足する。
「ご主人様。ヘルムヴァーテは慈愛を司る女神で、治癒の力に長けています。姉上は次の目的地が分かっていたのですか?」
「なに、簡単なことだよ。ここまで封印は、我等の出生の順に解かれているだろう。ならば次なる目的地はニダヴェリールであると、推測したまでだ」
なるほどと頷くジークフリートであったが、話の流れが一段落した所で、ガルガンチュア王がジークフリートに問いかけた。
「婿殿、一つ聞きたいことがあったのだが。まさか、ここにいるお前さんの連れは、全員女神なんて言わないよな」
ガルガンチュア王は、答えは殆ど分かっていたのだが、聞かずにはいられなかったようだ。
ジークフリートは、クスリと吹き出すと、ガルガンチュア王に答えた。
「その通りですよ。陛下」
「やっぱりか!何人従えてんだよ!こんな美人でしかも強い女ばかり!一人ぐらい寄越せ!!」
予想道りの答えに、ガルガンチュア王は、取り乱して素が出てしまったようだ。
「オッホン!!」
リンドブルムがやけに大きい咳払いで、ガルガンチュア王に注意を促した。
ガルガンチュア王はビクリとして、明後日の方を向く。
その様子に、思わずエルルーンが吹き出した。
絶望が、希望へと変わり落ち着いたのだろう。
そして、ジークフリートは新たに判明した目的地に思いを馳せた。
次の目的地は、ドゥベルグの国、ニダヴェリールです。
いかな、冒険がジークフリート達を待っているのでしょうか?
以下次回!!