戦い
シグルドは腰の鞘から、剣を抜き放った。
「感謝いたします!王よ!!」
そう、礼を述べながら、魔導装甲の全機能を解き放った。
深紅の刻印が、シグルドの全身を覆い閃光を放つ。
「破アアアアアアアアアアアア!!!!」
その闘気は、崩れかけた大聖堂をビリビリと震わせた。
『『おお!?』』
死霊騎士達が、驚きを現にする声をあげた。
しかし、シグルドの声をかき消すような、ジグムント王の声が響き渡った。
『カアアアアアアアアアアアア!!!!』
ジグムント王もまた、その鎧の力を発現させた。
漆黒の魔導装甲に、蒼い刻印が炎のように浮かび上がる。
その鬼気が、鬼火を呼び、まるで全身が蒼い炎に包まれたようである。
シグルドは戦慄を覚えるも、その顔には笑みがこぼれていた。
やはり、王も魔導装甲を問題無く使用出来るようだ。
強者との戦いを望む彼にとって、これ以上の敵は無い、と言えるほどの相手である。
『我身はオーディン神の加護を受けしエインヘリヤルとして存在している!!その力は生前となんら変わることは無い!!しかも疲労も痛みも感じぬ!!お前にこの我が倒せるか!?』
「倒せるかどうかは問題じゃない!!今の俺にとっては、戦うことにこそ意味がある!!!」
『ならば行くぞ!!』
「応!!!」
ズン!!と二人が同時に石畳を陥没させるほど踏み込み、次の瞬間互いに床を蹴った。
ガァッ!!
二人の剣同士が、ぶつかり合い火花を散らす。しかし、地力において勝ったのは剣王ジグムントであった。
『オオオオオオオオアア!!』
ジグムント王の剣が振り抜かれると、シグルドは弾き飛ばされ壁に激突した。
ドゴオオオオン!!
その音が大聖堂に木霊し、崩落が起きた。
「グハァ!!!」
シグルドは、瓦礫に埋もれ、倒れ伏した。
しかし、ジグムント王は追撃を行わず、その場に立ち、シグルドに語りかけた。
『この程度で終わりか?』
シグルドは、朦朧とする意識の中で、ジグムント王の声を聞いた。やけに懐かしく、優しい声音だった。
それと同時に、過去の記憶が蘇った。それは、かつて愛した女性と親友の声であった。
《シグルド、ごめんなさい・・・でも、どうかあなたも私たちの結婚を祝福して下さい。》
《シグルド、俺は――――を愛してしまった。許してくれ・・・彼女は俺が必ず幸せにしてみせる。だから・・・》
ミズガルズの貴族派の者達や、聖教会の教皇の後押しがあったとはいえ、最後は自分を裏切って結婚した。その二人への怒りが、シグルドの意識を繋いでいた。
「ま・・・だだ・・・!!」
身体の痛みなど、どこかへ消し飛んでしまった。
そして、シグルドは、瓦礫の破片の中から、再び立ち上がった。
(俺には、もう剣しかない!自分自身で培ったただ一つのもの!それが、剣だ!!)
その想いは、剣を持つ指に力を与え、柄が握りつぶさんばかりに、ギシリと音をたてた。
少し過去が、明らかになってきました。