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ラグナロクブレイカー  作者: 闇夜野 カラス
真戦の始まりの章
139/211

天人の騎士

 エルルーンを迎え撃ったのは、フギンと呼ばれた、男の騎士であった。

 エルルーンの鋭い一撃を腰から抜いた剣で難なく(さば)き、その勢いを殺したフギンは、エルルーンを押し戻した。


「人間にしてはなかなかやるな!我が名は、ヘル様の片翼、飛翼将フギン!我と戦えたことを誇りと思うがいい」


 その切っ先に、戦慄を感じながら、エルルーンは足元に存在する結界の効力が、この侵入者達に、全く効果を発揮していないことに愕然とした。

 つまり、この侵入者達は、邪悪なる者ではないということを示しているのだ。


「不思議そうだな?」


 フギンは余裕の態度で、エルルーンに質問する。

 エルルーンは、悔しさを感じながら、相手の隙を探る。


「我等は、天人(フリスズベルク)の末裔よ!流石のドルイドの術式も、神の血を引く我らには、力を示すことは無い!!」


 エルルーンはその言葉に納得した。

 神の血を引く一族、天人(フリスズベルク)それは、始原神ウルの血を引く部族で、その背に翼を持つ有翼人である。

 すでに、滅んだと思われていた種族である。

 ドルイドの術も、彼等が編み出したとされるものである。

 結界の無効化など、容易いことであるだろう。


「言っておくが、我等は結界の力を無効化などしておらんぞ」


 まるで、こちらの考えが読めるような受け答えに、エルルーンは天人(フリスズべルク)特殊能力(ユニークアビリティー)についても思い出した。


「そう、我等は思考を読むことが出来る。君の攻撃は全て事前に察知しているのだよ。無駄な抵抗は止めることだな」


 エルルーンはこの戦いが、すでに詰んでいる絶望感に襲われた。

 しかし、大封印の開放を看過することは、世界の破滅を意味しているのだ。


「引く訳にはいかない!!」


 そう言って、再びフギンに向かって間合いを詰めるエルルーン。しかし、その攻撃が届く前に、突如、エルルーンの身体を衝撃が襲った。


「グアッ!?」


 エルルーンの魔導装甲(マギアームス)の関節部、右肘と左膝に鋼で出来た羽根が食い込んでいたのである。


「ムニン!邪魔をするな」

「殺すなと、お(ひい)様のお達しだ。お前は天空騎士の誇りを忘れてはいまい。だが、そこまでだ」


 ムニンの足元には、薔薇十字聖騎士団の団員達が、エルルーンと同じように、関節部を鋼の羽根に貫かれ、動けないようにされていた。


「エルルーン様・・・」

「すみません・・・」


 エルルーンは、悔しげにヘルを見やった。

 ヘルは、闇の中から出ると、その姿をエルルーンの前に晒した。

 漆黒のドレスを纏った優雅な肢体、ウェーブのかかった白銀の髪、そして暗闇の中で光る真紅の瞳、しかし、一切の邪悪さが感じられない。それどころか、エルルーンが感じるものは、フォールクヴァングのセスルームニル大神殿で、女神の封石に感じたような神々しさであった。


「貴方は・・・一体・・・」

「そこで見ていると良い」


 そう言うと、ヘルは振り返り、神滅の槍(ミストルティン)を宙に浮かべた。


「おやめなさい!貴方は必ず後悔することとなります。これは、エイル猊下からの忠告です!どうか!」


 エルルーンが叫ぶが、ヘルの瞳に宿ったものに揺るぎは無かった。


「後悔など、とうの昔に捨て去ったわ。『貫け!!神滅の槍よ(ミストルティン)!!』」


 神滅の槍(ミストルティン)が真紅の光を発し、一条の光の矢となり大封印の水晶に突き刺さる。

 

「クッ!!」


 エルルーンは、ガクリと項垂れた。

 またしても、大封印の破壊をくい止めることは出来なかったのだ。


「これで、残る大封印は後二つ、行くわよフギン、ムニン」

「「ハハッ!!」」


 どこからか現れた霧と共に去っていくヘルを、エルルーンは、見送ることしか出来なかった。

 その表情には、言いようのない悔しさが浮かんでいた。

 フギンとムニンの前に、敗れ去ったエルルーン。

 そして、去っていく夜の女神ヘル。

 話は、再び戦後に戻ります。

 ジークフリート達の、次なる目的地は如何に!

 以下次回!!

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