大封印の間の戦い
巨大なドラゴンとなったファーブニルが、巨大な黒炎を吐き、ガルガンチュア王が黒炎に飲み込まれる。
エルルーンは、息を飲むが、その瞬間、ブリュンヒルデの凛とした声が響いた。
「守れ!!守護の盾よ!!」
守護の盾より出現した光り輝く魔法陣が、黒炎の奔流を押し返す。
「流石は、ブリュンヒルデ様!シュベルトライテ様の姉君というだけのことはある!!」
エルルーンは安心すると、闘技場から出ることにした。
もし、この襲撃が、ヴェーグリーズに存在する、大封印を狙ったものならば、そこには必ず夜の女神、ヘルが現れるはずである。
「今度は、逃がさん!!」
その決意が、エルルーンを進ませていた。
途中、部下である薔薇十字騎士団の団員である十二人の乙女達と合流し、一路、ビルスキルニル大神殿へと急いだ。
大封印は、トールの巨神像の真下に祀られているはず。
フォールクヴァングの教皇エイルから、事前に教えられた知識によって、エルルーン達は、神像の元に辿り着いた。
しかし、すでに封印されていたはずの大扉は開放され、その傍には、大封印を守る為戦ったのであろう神官達が絶命していた。
「なんということだ!!」
その中の神官の一人はまだ息があった。
「た、頼む!!」
息も絶え絶えに、エルルーン達に手を伸ばす神官、エルルーンはその手を取ると抱き起した。
「大丈夫か!!」
「私のことはいい・・・大封印を守ってくれ!!た・・のむ!!」
そう言うと、神官はトールの神像に手を伸ばし、最後にこう言った。
「身元に参り・・・ます。トールさ・・・」
力なく、床に落ちたその手を胸の前で組ませると、エルルーンと薔薇十字騎士団の団員達は、胸の前で聖印を組んで、僅かな黙祷を捧げると、地下に繋がる階段に飛び込んで行った。
「必ず守ってみせる!!」
そう、叫んだエルルーン同様、騎士団の乙女たちもまた戦意に燃えていた。
そして、その目に、大結界の発する赤い光が見えて来た。
「総員、油断するな!!」
その結界の中心に、エルルーンの予想道理、夜の女神ヘルが立っていた。
「おや?」
ヘルの方は、予想外の来客に、不思議そうに振り向いたが、エルルーンの顔に見覚えがあったのだろう。
「なるほど、フォールクヴァングの預言者の差し金か・・・無駄なことをする・・・」
エルルーンは、油断なく騎士団員達に命令を下す。
「相手は幻術を使う!全員十字聖弓展開!!射線上に大封印を入れろ!面の攻撃にて確実に手傷を負わせるのだ!!」
エルルーンを含めた全員が、その手に十字聖弓を展開させる。この世界の飛び道具は矢玉を必要とせず、魔力を光の矢と化し、射出するのだ。
最も、大封印には、傷一つ付けられないのだが、それを知っているエルルーンに遠慮は一切なかった。
「全員斉射!!撃ーーーーーーーーー!!」
十字騎士団の放った光の矢が、ヘルを襲う。
しかし、突如、銀色の閃光が横手から出現し、その光矢を全て弾き飛ばした。
それは翼であった。
金属の冷やかさを湛えた鋼の翼、それが左右の闇の中から現れ、エルルーン達の攻撃を防いだのである。
「お姫様、御身に何かあっては一大事、戯れは程々になされませ」
その言葉と共に、白銀の鎧に身を纏った男の騎士が現れた。
その顔は、鴉を模した鉄仮面に包まれていて、表情は全く見えない。
「そう言わないで、フギン」
「この者達の相手は、我等が致します。お姫様は本懐を」
次に現れたのは、女の騎士である。この騎士の顔も、鴉の鉄仮面で包まれている。
その鎧が、女性の身体に合わせて造られていなければ、女と判断できたか判らないハスキーな声であった。
「手加減はしなさいよ。ムニン」
そう言うと、ヘルは神滅の槍を出現させた。
「させるかーーーー!!」
そうはさせじと、エルルーンは剣を抜いて突貫した。
薔薇十字騎士団の団員達もそれに続いた。
新たな敵の出現でした。
フギン、ムニンは本来、オーディンに仕えるワタリガラスのことですが、この世界では、ヘルの部下として存在します。
フェンリルの部下、フレキとゲリもそうですね。
皆さんは分かったでしょうけどね(笑)
以下次回!!




