戦乱の陰で
ジークフリート一行は、ガルガンチュア王と共に、ビルスキルニル大神殿へと来ていた。
ここでは、魔神族の侵攻によって傷を負った兵達に開放していた。
戦いによって死んだ者も、決して少なくない。
輝くような勝利の裏で、傷つき倒れた者たちもいるのだ。
その負傷兵達に、声をかけつつ、ガルガンチュア王は、ブラギに導かれ、奥の一角に造られた天蓋付きの病室へ入って行った。
そこには、ボロボロに傷ついたエルルーンが横たわっていた。
シュベルトライテがいち早く気付き、そのベットの横に駆け付けた。
「エルルーン!コレは一体!?」
「申し訳ありません・・・不覚をとりました・・・」
シュベルトライテに答えるエルルーンであったが、右腕と左足に突き刺されたような裂傷があった。
これでは、例え魔法によって完治したとしても、後遺症が残るだろう。
シュベルトライテの肩に手を置き、やんわりと彼女から引き離したのは、ガルガンチュア王であった。
「聞かせてくれるな。大封印の間でなにがあったのか・・・」
ガルガンチュア王の視線には有無を言わせぬ迫力があった。
エルルーンは頷くと、事の詳細について語り始めた。
「今回、私が大闘技祭へ参加した目的は、ジークフリート様達へ、エイル猊下のご伝言を伝える為でした。実は皆様が立ち去った後、セスルームニル大神殿の大封印が破壊されたのです。しかも、大結界はその力を示すことなく侵入を許してしまっていたのです。夜の女神ヘル、そう侵入者は名乗りました」
ガルガンチュア王は、溜息をついた。
「そういうことは、事前に言っておいて欲しかったな。フォールクヴァングの騎士殿」
エルルーンは、すまなそうに言葉をついだ。
「すいません。しかし、夜の女神の力をしかと見るまで、決して他言してはならぬと、エイル猊下より厳命されていまして・・・」
「あの婆さんめ・・・」
悔しそうに言うガルガンチュア王に、ブリュンヒルデが声をかけた。
「知っていれば、ビルスキルニル大神殿に、多くの兵を置いていただろう?その分、大封印の開放に時間がかかり、敵の撤退は遅くなっていたはずだ。エイルはそのことを心配したのだろう」
「だが、敵の侵攻が判っているのなら、こちらに警戒を呼びかけることも出来ただろう?」
「あの黒龍太子ファーブニルというものは、竜の因子を持っていた。エイルの予知にはかからぬよ」
「なら、何故エルルーンはここでお前達を待っていたのだ!」
その理由は、エルルーンから語られた。
「エイル様が予知したのは、ジークフリート様達の行方でした。まさか、魔神族がこの時に襲撃して来ようとは思いませんでした。しかし、目的は限られます。ガルガンチュア王の命か、さもなくば・・・」
「大封印ということか・・・」
「すみません・・・私共の大封印を破壊された雪辱を晴らしたかったのです・・・我ながら浅慮な考えでした・・・」
ガルガンチュア王は、もうそれ以上エルルーンを糾弾しなかった。
彼も、戦士の誇りを知るものである。彼女の戦士としての誇り高さは、ヴィーグリーズのものであるなら知らぬ者は居ないほどである。
その彼女が、自ら敗北の詳細を語ったのである。
その、落胆ぶりは、如何程のものであろうか。
しかし、エルルーンは大封印の間で起きたことを語ることを止めなかった。
それは、黒龍太子ファーブニルの、ガルガンチュア王襲撃時に遡る。
その時の状況を余すことなく、エルルーンは語り続けた。
戦闘に加わることが無かったエルルーンも、陰で戦っていました。
そして、その戦いとは如何なるものであったのか、その詳細が語られます。
以下次回!!




