古き約束
「父上!どういうおつもりですか!?」
すれ違う人々に祝福されつつ、とまどいながらもガルガンチュアの横に立った時のリンドブルムの第一声である。
ブリュンヒルデ達はジークフリートの周りに集まり、人々の尊敬の的になりつつ、対応していた。
「公式に婚約を発表してしまった以上、ジークフリートを脱走兵として追っているミズガルズとの国交関係に罅が入りますぞ!」
リンドブルムはヴィーグリーズの王族としての立場から発言しているのであった。
それは、彼女の責任感から来るものであったのであろう。しかし、ガルガンチュアは一笑にふして答えた。
「ミズガルズが追っているのは、シグルドという脱走兵だ。ここにいるのは、ヴァルムンクの王子、ジークフリート殿だぞ。それにな、お前には一つ隠していたことがある」
それは詭弁ではないかと言おうとしていたリンドブルムに、ガルガンチュアは思いがけない言葉を口にした。
「実は、お前と婿殿は許婚同士だったのだよ。かつて取り交わした約束が、このような形で実現するとは思わなかったがな」
この言葉には、ジークフリートも驚いた。
その話は、かつて盟友であった、ヴァルムンクの剣王ジグムントとガルガンチュアとの間で、もし未来において、二人の子共が男女であった場合、婚姻させて互いの結びつきをより強くしようではないか、というものであった。
この提案は、それぞれの妻、ヘカーティアとヒルデガルドも強く賛成していたらしい。
「つまり、お前達の婚約は、まさに運命とも言える。それに知っているだろ。俺はミズガルズに、良い感情を持っておらん。ヒルデガルドの仇でもあることだしな」
ガルガンチュア王の妻、ヒルデガルドは優れた戦士でもあり、ミズガルズの亜人族に対する、苛烈ともいうべき弾圧政策に異を唱え、その集落に対する襲撃を未然に防いでいたらしい。
フェルナンデスやゴライアス、カーシャも、その戦いの中で、ヒルデガルドに命を救われ、孤児となった所を拾われ、戦士としての素養を見出されたのであった。
しかし、この行いは光の聖教会にとって許し難いものであった。
即座に討伐命令が下され、ミズガルズ王直々に討伐に出向き、国宝神滅の槍でその命を奪ったらしい。その言葉に、ジークフリートは驚いた。
「まさか、リンドブルムの母上も、フレイに命を奪われたのか・・・」
リンドブルムは、その言葉を聞き逃さなかった。
「も、とはどういうことだ?ジークフリート」
その質問に、ジークフリートは自重しながら答えた。
「俺の父、剣王ジグムントも、神滅の槍で、ミズガルズの現国王フレイに殺されたんだ。笑ってくれていいぜ。今まで俺は、自らの仇に仕えていたんだからな・・・」
ジークフリートはかつて、死霊戦士となった司教ミーメに聞かされた話を言って聞かせた。
「そのようなことがあったとはな・・・」
ガルガンチュア王もリンドブルムも笑うことなく、真剣にその話に聞き入っていた。
ジークフリートは魔導宝庫に納められていた、真っ二つになった氷の魔剣、ノートゥングを取り出し、ガルガンチュア王に尋ねた。
「これは、ヴァルムンクに伝わる魔剣ノートゥング、王位継承の証しでもある剣です。ガルガンチュア王、この剣、修復することは可能でしょうか?」
ガルガンチュアは、見事に斬られたその刀身をしげしげと眺めた後、こう言った。
「魔導核は破壊されていないが、ヴィーグリーズでは無理だな。可能性があるとすれば、ドゥベルグの国ニダヴェリール位のものだろうよ」
ガルガンチュア王の言葉に、ジークフリートは礼を言い立ち去ろうとしたが、そこへ、宮廷魔術師筆頭であるブラギが早足で入って来た。
ブラギは、ガルガンチュア王の元まで来ると、傍に寄って素早く耳打ちした。
ガルガンチュア王は頷くと、立ち上がって人々に退席することを告げた。
「宴もたけなわだが、そろそろ退席させてもらおう!婿殿とリンドも募る話があるだろうからな!皆は宴を楽しんで行ってくれい!!」
そう言うと、玉座の間は笑い声で包まれた。
リンドブルムがむきになって、ガルガンチュア王に何か言いかけた時、振り向いた王の真剣な顔に、ジークフリート達は何か嫌なものを感じた。
「では行こうか、婿殿!」
一転して笑顔を浮かべ、一行を促すガルガンチュア王に従い、ジークフリート達は玉座の間を後にした。
実は許婚同士でした。というお約束ですね!
次は、大封印の間で起きた話になります。
魔神族の襲撃の際、一体何があったのでしょう?
以下次回!!




