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ラグナロクブレイカー  作者: 闇夜野 カラス
真戦の始まりの章
133/211

撤退

 魔神族の撤退命令は、即座に全軍に伝わった。

 東の戦場で、ゲルヒルデの相手を務めたフェンリルは、その命令に待ってましたと言わんばかりに撤収した。

 巨大な黒狼となり、スピードで常にゲルヒルデを翻弄(ほんろう)していたフェンリルであったが、その攻撃はゲルヒルデの槍持て戦う者(ゲイルスケグル)に一切通用しなかったのだ。


『悪いが今日はここまでだ!こっちは引かせて貰うぜ!!』

『チョッ!!逃げるんスか!?やっと見切ってこれから反撃ってとこなのに!!』

『知るかよ!!じゃあな!!』


 そう言うが早いか、黒き疾風となり、フェンリルが掻き消える。

 それと同時に、ゲルヒルデの秘技(スペシャルアーツ)が発動する。


飛燕突き(スワロースクライド)!!』


 閃光と化した槍が、空を切り裂く。

 槍を突き出した姿勢のまま、ゲルヒルデは勇気の槍(ゴングナー)の穂先を見た。

 僅かな血痕が付着していたが、手応えは浅かった。


『逃がしたッスか・・・次は必ず仕留めてやるっス!!』


 こうして、東の戦場での戦いは終った。


 一方、シュベルトライテの戦いは、終始シュベルトライテが、優勢であった。

 竜斬刀(シルドレイク)が振るわれる所、ドラゴンの血が大地を染めていた。

 西方の平原に集結していたのは、ファーゾルト率いる竜の兵団であった。

 最大の戦力を有したこの軍団は、人間が相手ならば、その強固な竜麟の防御力と、強大な竜の吐息(ドラゴンブレス)の破壊力によって、今頃はヴィーグリーズの街を破壊していたはずである。

 しかし、たった一人で出現した戦乙女(ワルキューレ)と、その操る魔導姫神(レギンレイブ)によって、その最強の兵団は蹂躙(じゅうりん)されていた。


『おのれ!!神々の遺産など持ち出すとは!!これでは、ファーブニル様に合わせる顔が無い!!かくなる上は、刺し違えても!!』


 そう覚悟したファーゾルの元に、撤退命令が届く。


『本懐は成し遂げられたか・・・ならば、今は退くのみ!!この雪辱は必ず果たす!!』


 そう言うと、ファーゾルトは後詰を残して撤退した。

 殿(しんがり)に残った竜族は、最後の瞬間までシュベルトライテと戦い続けた。


『なんという団結!!そして、忠誠心!!これは恐怖で縛られた者達の持つものではありません!!一体、敵の首領とは如何なる者なのでしょうか!?』


 シュベルトライテをして、怯ませる何かが、竜族の瞳に宿っていた。

 これは、ただの殺戮の為の出兵ではない。

 そう、シュベルトライテの直感が(ささや)いていた。

 最後の一頭に止めを刺し、竜の死体の山の上で、戒める者(ヘルフィヨトル)に乗ったシュベルトライテは、敵が去って行った方角を刺すような瞳で見つめていた。

 これは、戦いの終りではない。

 むしろ、始まりではないのか、その予感がシュベルトライテの胸中に広がって行った。


 そして、大河に向かったジークルーネの前には、氷に閉ざされた大河から、巨大な存在が現われていた。

 蛇王ヨルムンガルドである。

 その体表には、霜がまとわり付いき、その動きを阻害していた。


『まさか、このような方法で、こちらの頭を抑えられるとは・・・』


 その半身が浸かっている氷の中には、渡河部隊の魚人族の半数が氷漬けにされていた。


『大河を塞き止める訳には行きませんからね。手加減したのが裏目に出ましたか・・・』

『これで、手加減したのか・・・』


 同胞が生きているか死んでいるか判らないこの状況では、迂闊(うかつ)に動くことは出来なかった。

 その時、全軍に撤退命令が下った。

 ヨルムンガルドが、不承不承従おうとした。

 その時、ジークルーネの操る杖を振るう者(ゲンドゥル)破壊の杖(ヴァナルガンド)を振るった。

 その一瞬で、凍土と化していた大河が水に戻った。

 急激な水流の変化に、体勢を崩すヨルムンガルドだが、ジークルーネの追撃は来なかった。


『退くがいい、魔王よ!でなければ、次の一撃は確実に死をもたらすものとなるでしょう』


 その言葉に、ヨルムンガルドは激昂したが、同胞の命には換えられないと全軍に撤退を宣言した。

 身を翻して、大波を起こしながら水中に没するヨルムンガルド。

 その姿を見た、水路の防衛にあたっていた兵士達から、歓声が上がった。


(撤退してくれてよかった・・・。こちらも、魔力が限界でしたからね・・・)


 実の所、ジークフリートとガルガンチュアの最終決戦で、結界の維持に魔力を消費していたジークルーネも限界であったのだった。

 魔神族撤退!

 しかし、その裏で一体何があったのか・・・。

 以下次回!!


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