一応の勝利
形勢は四人の戦乙女の介入によって、ヴィーグリーズの優勢に転じていた。
しかし、闘技場で続いている戦いは、未だ決着が付いていなかった。
魔導姫神の力を持ってしても、黒龍太子ファーブニルの黒龍形体の猛攻を抑えることで手一杯であったのだ。
二人の実力は、伯仲していた。
後一手が足らないのである。
『やはり、魔導姫神との戦い方は、心得ているようだな!流石と言っておこうか!ファーブニルよ!!』
『その魔導姫神、見覚えがある。前大戦において我が兵団と戦い。古代竜の一族を壊滅させた白銀の姫神、鎧を纏う者だな!積年の恨み忘れるものではない!!』
言葉と共に、二人は攻撃の手を緩めない。
正義の剣が振るわれると、ファーブニルは竜麟を切り裂かれつつも受け流し、窮地に立たされるや、ブリュンヒルデの軍勢の守り手の背後に存在するガルガンチュアを狙って黒炎を吐く。
止むなくブリュンヒルデは、その防御に力を割かねばならなくなる。
その繰り返しであった。
(とはいえ、決定打に欠ける。それに、他の場所に向かった奴等も、魔導姫神使いならば、早々に決着を付けねば、こちらの損失が増すばかりだ・・・最悪、本懐は遂げねばならん!!)
そこまでファーブニルが考えた時、所持しているはずの念話水晶に連絡が入る。
それは、ファーブニルが心待ちにしていたものであった。
『兄上、こちらは完了しました。この後は如何なさいますか?』
それは、夜の女神ヘルからの念話であった。
『全軍に撤退命令を出せ!!ここは退くにしかず!!フェニヤ!!』
「ハッ!!」
物陰から、魔導姫神の隙を伺っていたフェニヤが飛び出す。
『撤退するぞ!!』
「承知致しました!!『鎖縄楼閣!!』」
突如として現れた、フードを目深に被った、竜の翼を女から、濃い霧が押し寄せ、武舞台を覆い尽くす。
『逃がさん!!』
そう言って、空に舞い上がる軍勢の守り手。
霧の中に目を凝らし、ファーブニルが飛び出て来る瞬間を待つ。
しかし、待てど暮らせど、ファーブニルは現れない。
『まさか!ガルガンチュアを!?』
そう思い、降下したブリュンヒルデを待っていたのは、ガルガンチュアを支えて立つ、ジークフリートの姿だった。
『してやられたか!!』
そう、ファーブニルは人間形体へ戻り、混乱に乗じて闘技場から脱出したのである。
「何とかなったようだな・・・」
そう言うガルガンチュアの顔に、ようやく安堵が浮かんでいた。
「リンドブルムは、まだ帰ってないんだろう?いいのかよ?」
「俺の娘だぜ!そう簡単にくたばってたまるかよ!!」
ガハハと笑いながら、ジークフリートの肩をバシバシ叩くガルガンチュア。
しかし、そこに駆けつけたブラギによって、その和やかな雰囲気は霧散した。
「大変ですぞ!ガルガンチュア様!先程ビルスキルニル大神殿が襲撃を受け、大封印が破壊されたと報告が!!」
ガルガンチュアは、その報告を聞くと、瞬時に王の顔に戻った。
「なるほど・・・敵さんの本当の狙いは大封印って訳だったのか・・・引き際の見事さといい。こりゃあやられたな・・・」
そう言うガルガンチュアの表情には、言い知れぬ不安が張り付いていた。
ファーブニルの真なる狙いは大封印にありました。
一応の勝利を得た、ジークフリート達。
しかし、これからの旅路はどうなって行くのでしょうか!?
以下次回!!




