紅の輪舞
ヴィーグリーズで行われた戦いにおいて、最も激戦となったのが、北の平野で行われた戦いであった。
この戦いに参加したヴィーグリーズの将兵の総数は、三万人。
傭兵の参加も含めると、約三万五千人である。
ヴィーグリーズに存在する傭兵のほぼ総てがこの戦いに加わった計算になる。
これだけでも、ガルガンチュアのカリスマがいかほどのものか伺える。
そして、これを率いたのは、紅の戦姫リンドブルム、副将として獣戦士団団長ゴライアス、作戦参謀として剣士団団長フェルナンデスが付いていた。
他方面から送られてくる報告には、鋼の巨神の参戦によってヴィーグリーズの優勢で戦は続いているらしい。
「っておい!鋼の巨神ってなんだ!!」
報告に噛みついたリンドブルムに、フェルナンデスは当惑気味に答えた。
「分かりません。しかし、戦局はこちらに傾きつつあります。この上は敵の本陣を突き、頭を叩くべきだと思います」
その意見を聞き、リンドブルムは頷いた。
「よし!その意見を執るぞ!」
この言葉を聞いたゴライアスと、フェルナンデスは嫌な予感がした。
「いざ!出陣!!」
その予感は、残念なことに的中した。
リンドブルムが、光の翼を展開し、臨時に設営した本陣を飛び出したからだ。
「貴方が行ったら、意味無いでしょう!!」
「姫様に続けーーーーーー!!!」
フェルナンデスもゴライアスも、その突撃に参加した。
前軍参加による矢の陣である。
幸いなことに、敵側も挟撃に廻す戦力がなく、正面からこれを迎え撃った。
魔神族を率いたのは、蛇王ヨルムンガルドの腹心、蛇将エキドナであった。
「なんだと!!敵が全てこちらに向かって来るだと!!他方面からの援軍は!?」
「残念ながら・・・」
「クッ!!」
こちらの数は五万、数においては有利であるが、季節が悪い。
冬は、蛇身族にとって最も身体の動きが制限される季節である。
蜥蜴人達の殆どが、夜になると動きが鈍るのだ。
そのため、砦の襲撃も昼に行わなければならなかったほどだ。
陽が沈みかけた今、戦力は半減していると考えていいだろう。
渡河部隊の魚人族と共に、大河に向かったヨルムンガルドは無事であろうか。
そう考えた時、上空から声が聞こえた。
「そこにいるのは、この軍の将と見た!我が名はリンドブルム!いざ尋常に勝負!!」
エキドナは頭を抱えたくなった。
何故、紅の戦姫がここにいるのか。
そして、何故、竜人でもないのに、空に浮かんでいるのか。
破れかぶれに、円月刀を抜いたエキドナは、その侵入者に名乗り返した。
「私の名は蛇将エキドナ!!相手になってやるよ!!」
しかし、地上戦を得意とするエキドナは、この戦いの不利を悟っていた。
自分の蛇身である下半身を使い、間合いを崩しながら、相手を幻惑して戦うのが基本的な戦法である。
空中戦は、全くの死角になってしまうのである。
しかも、リンドブルムの振るう雷鳴の斧槍を受けた瞬間、電撃がエキドナを襲った。
「ガアッ!!」
「「エキドナ様!!」」
全身から煙を上げるエキドナを庇い、蜥蜴人の戦士達が前へ出る。
だが、リンドブルムを止めることは不可能であった。
雷鳴の斧槍を振るい続けながら、リンドブルムは自分の強さを再認識していた。
(やはり、あのブリュンヒルデの強さが異常なのだ!私は強い!!)
まるで、無人の野を往くが如く、リンドブルムは戦場を舞い続けた。
リンドブルムさんの独壇場です!
エキドナは不運としか言いようがありません。
ちなみに、魔導姫神の当て字にしているレギンレイブは、戦乙女の名前です。
神々の娘という意味です。
ブリュンヒルデ達の魔導姫神の名前も、そのまま戦乙女の名前です。
以下次回!!