魔導姫神
ファーブニルは、憎々しげにその機神を睨みつけた。
『神々の遺産!!またしても我等が覇道の邪魔立てと為るか!!』
ファーブニルは、後ろ脚で立つと翼を広げ、全身で怒りを現した。
方や、ブリュンヒルデはその身体が光の粒子となって消える。
次の瞬間、彼女は闇の中にいた。
と、その足元に魔法陣が浮かび上がる。
続いて、前後左右、頭上にも魔法陣が現れ、その向こうに外の情景を映し出す。
ブリュンヒルデが、正義の剣を振るうと、魔導姫神もまた、その手中に剣を出現させ振るう。
すると、正面の魔法陣にルーン文字が浮かぶ、神姫一体と表示されていた。
ブリュンヒルデが、構えをとると、魔導姫神も構えをとるが、そこに先程の時間的な遅れは一切ない。
正に、機神と一体となったブリュンヒルデは、反撃に打って出た。
一方、シュベルトライテは西方の平原に向かっていた。
前方から、雲霞の如く押し寄せる魔神族を前に、両手に持った竜斬刀を振り上げ、高らかに叫ぶ。
『来たれ、戒める者!!』
七色の光の柱が、魔神族の進行方向に降り立つ。
突如として現れたその光の中から、藍色の機神が姿を見せる。
進行を妨げられた魔神族の将軍は、ファーゾルトであった。
「あれはまさか!!魔導姫神!!いかん!相手が悪すぎる!!防御陣形!!攻撃に備えよ!!」
古代竜さえも、撃ち滅ぼすとされる機神の出現に、ファーゾルトは戦慄を覚えた。
そしてこちらは、東へ向かったゲルヒルデである。
「あーーーー!絶対、印象最悪ッスヨ!姉さん達酷いッス!!」
愚痴を零しながら飛ぶゲルヒルデの視界に、魔神族の大軍が飛び込んできた。
「見つけた!こうなったら別の方法でアピールするしかないッスよね!!」
そう意気込むと、空に勇気の槍を振り上げた。
『来たれ!!槍持て戦う者!!』
七色の閃光が、魔神族の足を止める。
その輝きの中から、碧の装甲に身を包んだ機神が現れる。
その正体に気付いたのは、この軍の将を任されたフェンリル唯一人であった。
「話が違うぞ、兄貴!!クソッ!!獣神機さえありゃあ勝負が出来るが、今は無理だ!!フレキ!!ゲリ!!」
「「ハッ!!」」
その呼び声に、二人の戦士が進み出た。
狼の毛皮を纏ったその二人は、フェンリルの側近の戦士である。
その二人は、フェンリルの口から信じられない言葉を聞くこととなる。
「撤退すんぞ!!俺が時間を稼ぐ!!一人でも多くの同胞を逃がせ!!」
だが、その言葉の真意を二人はすぐに理解することとなる。
そして、フィンブリスルの大河に着いたジークルーネは、その水底から途轍もない殺意が迫って来ていることに気付いていた。
「なるほど、これは厄介ですね。では、先手を打たせてもらいましょうか」
その手に持った破壊の杖を天へ翳す。
そして、相手にとって死を告げる名を呼んだ。
『来たれ、杖を振るう者!』
その秘められた破壊力とは正反対の、澄んだ水色の機体。
虹の橋より現れた魔導姫神に搭乗したジークルーネは、即座に広範囲攻撃魔法を起動させる。
杖を振るう者の手に破壊の杖が、巨大化して出現し、天空に魔法陣を展開させる。
『総てを凍て着かせる全き氷雪の天蓋よ!ここに顕現せよ!凍結地獄!!』
それは、一瞬の出来事であった。
ヴィーグリーズの民は誰もが知っていた。
真冬であっても、フィンブリスルの大河は凍ったことは無い。
しかし、その光景を見た者達は、口々にこう言った。
「奇跡が起きた」と
霜の巨人族と戦うための鎧、それが魔導姫神である。
その質量の差を埋め、しかも、武具の性能を失うことなく使用できる甲冑である。
魔法って便利だね!!
以下次回!!