漆黒の暗殺者
異形の騎士がゆっくりと立ち上がり、腰に差した剣を引き抜く。
その所作に、隙は微塵も窺えなかった。
「王よ!」
「我らが盾となります!お早く!」
フェルナンデスとゴライアスがその間に滑り込むが、それを制したのは、ガルガンチュアであった。
「退いてろ!こいつは只者じゃねぇ!お前らじゃ相手にならねぇよ!」
そう言いながら、ガルガンチュアは、暗殺者の背後にある雷神の鎚へ意識を集中する。
しかし、雷神の鎚はその意思に応えない。
(不覚!!)
神技を使用した負荷が、未だ雷神の鎚を縛り着けているのだった。
「何者だ?唯の殺し屋じゃねぇだろ!?名乗れよ!暗殺者!!」
ふと、構えられたその剣に、見覚えがあった。
「まさか、ダインヘイムの宝剣、覇者の剣!!貴様一体!?」
問いかけられた暗殺者は、表情を変えることなく、淡々と答えた。
「黄泉路への土産に名乗ってやろう。我が名はファーブニル!ヨートゥンヘイムの支配者、アングルボザが長子!!黒龍太子ファーブニル!!」
名乗りと共に叩きつけられた殺気が、大気を歪ませる。
常人であるならば、それだけで絶命するであろうその殺気を受け、フェルナンデスとゴライアスは指一つ動かせなくなってしまった。
ガルガンチュアの方も、健全な状態ならいざしらず、今はリンドブルムに支えられて立っているのがやっとの状態である。
ヴィーグリーズの運命は風前の灯であった。
しかし、その両者の間に、割って入った者がいた。
瞬時に白銀の神鎧甲を纏ったブリュンヒルデであった。
「主殿!!ゲルヒルデの封印を!!こやつの相手は私がする!!」
そう言われ、ジークフリートは我に返った。
余りにも急転直下な成り行きに、茫然自失としていたのである。
「わ、分かった!!」
そう言って、ジークフリートは炎の魔剣を召喚した。
『我が元に来たれ!!剣よ!!』
しかし、反応がない。
王の観覧席の真下の壁に突き刺さったままである。
「ご主人様!おそらくヴィーが気絶してしまっているのでしょう!直接取りに行くしかありません!!」
ジークルーネに説明され、ジークフリートは絶望的な気分になった。
今の自分は、歩くこともままならないのだ。
しかも、刺さっているのは武舞台の外周の堀の壁である。
どれほど、時間がかかってしまうのか、と考えた時、身体が宙に浮いた。
「では!姉上!!」
「うむ!頼むぞジークルーネ!!」
姉妹は、言葉少なく了解し合うと、それぞれの役割に突入した。
ブリュンヒルデは、ファーブニルと対峙し、ジークルーネは飛翔魔法で、ジークフリートを連れ炎の魔剣の元まで運ぶ為、舞い上がった。
「無粋な・・・」
ファーブニルはそう呟くと、ガルガンチュアに更なる絶望を告げた。
「今頃、我が魔神族の兵団が、このヴィーグリーズの四方から殺到してきているはずだ!ガルガンチュアよ!お前が死ぬか、降伏するかしなければ、我が軍は殺戮を止めはしないだろう!潔く死ぬがよい!!」
ガルガンチュアの顔から血の気が引いた。
一方、ジークフリートは、ジークルーネに抱えられながら、炎の魔剣の元に辿り着いていた。
「おい!ヴィー!!しっかりしろ!!」
炎の魔剣を引き抜き、話しかけてみると。
『うう・・・巨大な拳骨が迫ってくる・・・し、死ぬ・・・』
などという声が聞こえた。
構うことなく、ジークルーネが声をかける。
「しっかりなさい!!もう一働きしてもらいますよ!!それまで頑張りなさい!!」
『は・・・はいぃ』
そのまま、ジークルーネは、女神の封石の元までジークフリートを運んだ。
第四の女神、ゲルヒルデの封印が、解かれようとしていた。
遂にゲルヒルデ復活!
しかし、迫り来る絶望に、ジークフリート達はどうやって立ち向かうのでしょうか!
以下次回!!