決着の時
既に廃墟と化した武舞台の上で、ジークフリートとガルガンチュアの肉弾戦は続いてた。
二人の得物は、使用不能となっている為、必然とそうなってしまっているのだが、観客達は総立ちである。
「「「「ガルガンチュア!!ガルガンチュア!!ガルガンチュア!!」」」」
「「「「ジークフリート!!ジークフリート!!ジークフリート!!」」」」
二人の名が連呼され、その声で闘技場は埋め尽くされていた。
その声に後押しされるように、二人は攻撃の手を緩めない。
とはいえ、互いの神技によるダメージによって、その動きは頼りない。
ガルガンチュアの剛腕も今や、風を切る威力もない。
ジークフリートの方も、作戦通りとなったとはいえ、黒獅子の鎧による治癒効果も薄くなってしまっている為、決定打に欠けるのだ。
(クソッ!ガルガンチュアは神技を撃った後は激しく消耗して、一定時間、雷神の鎚が使えなくなるから、今がチャンスだって言うのに!動け!俺の身体!!)
予想外であったのは、炎の魔剣の全ての魔力を使う羽目になってしまったことであった。
カウンター気味に入った一撃も、相手の威力の全てを殺せず、魔神化もままならない状態になってしまった。
だが、今が千載一遇のきかいであることには、間違いなかった。
「うおおおおおお!!!」
「ぬああああああ!!!」
二人の拳が、空を切る。
互いに、限界を超え、死力を振り絞って闘っているのだ。
「父上!ジークフリート!」
「目を逸らすなよ。リンドブルム!これほどの闘いは、一生に一度、見られるかどうか分からん!」
「そうですね。これほどとは思いませんでした」
王の観覧席で、ブリュンヒルデ達も勝負の行方を、固唾を飲んで見守っていた。
ガルガンチュアは、固めた拳を振るいながら、散り散りになった思考の中で、決着を急いでいた。
(雷神の鎚はしばらく使えねぇ!それに、いつまで動けるか分からん!しかも、ジークフリートの奴は、少しづつ回復してやがる!今、決着を着けるしかねぇ!)
残った力の全てを乗せ、最高の一撃が振るわれた。
今までの死んだ拳ではない。
まさに生きた拳である。
当たれば、首から上が吹き飛びそうな一撃であった。
しかし、ジークフリートはその一撃を待っていた。
唸る剛腕が、顔面を捉えたかに見えたその時、ジークフリートは更に踏み込んだ。
顔の横を通り過ぎる拳の摩擦で、頬が切り裂かれ、鮮血が飛び散る。
その腕の上をジークフリートの拳が飛んだ。
飛燕の速さで放たれたその拳は、ガルガンチュアの顎を撃ち抜いた。
自分の攻撃力そのままを返されたガルガンチュアは、意識を刈り取られゆっくりと倒れた。
観覧席で見ていたリンドブルムが立ち上がり、武舞台に向かって駆けだした。
ブリュンヒルデ達も、それに続いた。
時間にして、一分ほどであろうか、ガルガンチュアが目を開けると、リンドブルムの泣きそうな顔が見えた。
ああ、そうかと、ガルガンチュアは思った。
負けたのだ。
ジークフリートに。
自分を見下ろすこの青年に。
それと同時に、肩に在った重荷が、急に軽くなったような気がした。
ニヤリと、男臭い笑みを浮べながらガルガンチュアは言った。
「俺の負けだ。婿殿」
何故か晴れ晴れとした表情で、敗北を受け入れたガルガンチュアに、ジークフリートは手を差し出した。
その手を掴み立ち上がったガルガンチュアは、そのまま、ジークフリートの腕を取り掲げさせた。
勝者が示されたのである。
「「「「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」」」」
観客が、歓声を上げ闘技場が爆発したような雰囲気に包まれた。
大闘技祭の真なる優勝者が決った瞬間であった。
しかし、その歓喜の渦の中に、黒き流星が飛来する。
ズシャ!と鎧を響かせ、着地した異形の黒騎士、その背には竜の翼が生えていた。
ジークフリート達を見つめるその瞳に、氷の冷たさを湛えながら、騎士は告げた。
「ガルガンチュア王!御命頂戴仕る!!」
大闘技祭終了の巻!
しかし、戦いは更なるステージへ!
以下次回!!