頂上決戦開始
「さあて!始める前に一つ、やっておかなきゃならんことがある」
スッと雷神の鎚をジークフリートの後方へ向けた。
「そこでぶっ倒れてるご老体に退場願おう。・・・サッサと連れ出せぃ!」
ガルガンチュアのその言葉によって、衛兵達が慌ただしく動き出した。
「それにしても、まさかあのヴェオウルフを瞬殺するとは、驚いたぜ、婿殿!」
「フルンティングは一度折れたことがあるんだよ。邪竜ニドヘグの息子、巨人グレンデルとの戦いの事は知ってるだろ?って婿殿ッて何だよ!!」
「固い事言うなって!勝っても負けてもお前さんには、リンドを嫁にしてもらうつもりだからな!それで・・・?」
ジークフリートは、やれやれと嘆息しながら答えた。
「・・・グレンデルには、剣の刃に傷つくことは無いという呪いがかけられていたのさ。だから、フルンティングは全く役に立たなかったのさ」
運ばれていくヴェオウルフを見送りながら、ジークフリートは聞き耳を立てているであろう観衆にも語って聞かせた。
「フルンティングは本来、血を吸えば吸うほどに堅牢になるという厄介な剣だが、グレンデルの拳で叩き折られちまった。その繋ぎ合わせた部分を狙って切ったんだよ。あの爺さんの本領は、組み打ちに在る。巨人や邪竜を己の身一つで退治してのけたんだからな。まともにやれば、苦戦は免れない。工夫もするさ」
「そしてあの一撃か・・・」
ガルガンチュアは神技をジークフリートが使った意味を、なんとなくではあるが悟っていた。
あれは、同じく神技を使える自分と、同等の実力があると示して見せたのだ。
(律義な奴だな・・・)
ニヤリと笑いながら、ガルガンチュアは戦闘態勢に入った。
空に雷神の鎚を掲げると、みるみる快晴だった空が曇天となり、雷鳴を轟かせ始めた。
『ご主人!あれはとんでもないぞ!気象まで操るとは、並みの武器ではない!』
炎の魔剣からヴィーの切迫した声が響いた。
「知ってるよ。だけどお前も、満月を過ぎて魔力は全開だろ?」
『それはそうだが・・・』
「それに、俺は一度、ガルガンチュアが神技を実際に撃つ所を見たことがある。勝機はあるさ」
正に、戦雲を呼んだガルガンチュアと、それに呼応するように炎の魔力を滾らせるジークフリート。
その姿に、観客達はこれから訪れる英雄同士の闘いに期待を膨らませていた。
唯一、落ち着いてその様子を見ていたのは、王の観覧席にいるブリュンヒルデ達であった。
「真の試練が始まったか・・・よく見ておけよ、ゲルヒルデ!我が主殿の闘いの様をな!」
そう女神の封石に語りかけるブリュンヒルデを、リンドブルムがまるで痛い子を見るような目で見ていたが、それを他所にブリュンヒルデがリンドブルムに言った。
「ではそろそろ試合開始の宣言でもしてもらおうか?リンドブルムよ!」
「ッ!!私か!?」
驚いて立ち上がったリンドブルムに、ブリュンヒルデは呆れながら言った。
「他に誰がいる?」
そう言われてみれば、確かにそうだった。
階下のブラギを見ると、こちらを振り返り頷いている。
常ならばこれは王である父の役目、しかし、この場において自分がこの号令を発するのが最も相応しいだろう。
なにせ、ジークフリートは、自分との結婚を認めさせるために、あの偉大な父に挑むのだから。(勘違いであるが)
そう奮い立つと、リンドブルムは大音声を張り上げた。
「それではこれより!女神の封石を賭けた、頂上決戦を行う!!」
それは、ヴィーグリーズの歴史に残る闘いの始まりであった。
「試合開始!!!」
雷と炎の撃突が始まります。
皆さんは安全な場所まで避難して下さい!
それでは!以下次回!!(笑)




